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 「それはいずれは取り掛からなければならぬことではあるが、しかし……」


 翌日、稲葉山城内政務室に、重臣その他関係者一同で集まることとなっていた。


 近年戦続きで出費がかさみ、財政難の影響が色濃くなってきたため、財政再建計画のようなものを話し合うのだった。


 話し合いとはいっても、どうせ最終的には父が勝手に決めてしまうのだけど、とりあえずは参加者から広く意見を求めた。


 美濃は国土の大部分が山地で、田や畑を広げるのも難しく、海に面していないので貿易にも限界がある。


 そこで、領国の真ん中を流れる長良川を整備して、交易で利益を上げる案を提唱したところ……。


 「洪水が多発しており、今のままでは危なくて使えない。まずは治水事業が必要となるが、その予算はどうするのだ」


 やはり揚げ足を取られた。


 案を出せというから出したのに、出したら出したで絶対こうなるのだ。


 光秀たち比較的世代の近い者たちが賛同する声を上げてくれたため、重臣も「幸い今は戦もないし、ここは若い人たちに任せてみては」的なことを父に進言したのだけど、


 「治水事業は国の行く末を左右する重要な政策だ。失敗は許されぬ。経験の浅い者たちには任せるのは危険なので、ここは専門の者を招いて……」


 などと信用していないようなことを言っておきながら、その後私の提案した長良川通行税徴収案が、実行するにあたって難があるとなった途端、


 「年若いからと言って、甘えは許されないのだぞ。周辺諸国を見てみるがいい。例えば最近家督を継いだ、越前の朝倉義景。そなたよりずっと年若いにもかかわらず、すでに越前一国を切り盛りしている。そればかりではない。室町幕府第13代将軍・足利義輝様はさらにお若い。なのに征夷大将軍としてこの国のかじ取りをなさっている。御二方はまだ十代なのに、そなたよりはるかに重責ある地位に就いておられるのだぞ」


 いきなり公方様(将軍)や周辺諸国の武将と私を比べ始めた。