「……琵琶かな?」


 音色が聞こえてくる方角へと、一人歩みを進めた。


 庭園を横切ると、しばらくして別館のような建物が見えてきた。


 さすがに広大な、土岐家の館。


 ようやく音色の在処へとたどり着けそうだ。


 やはりそれは琵琶の、力強い音色だった。


 楽器をたしなむとは、御屋形様のご一門の御方だろうか。


 なぜかとても気になって、徐々に薄暗くなってきた庭園をさらに歩き続けた。


 すると御屋形様の本館とは離れた、別館と思わしき建物にたどり着いた。


 「女……?」


 驚いた。


 力強い音色だったので、弾いているのは男だと思い込んでいた。


 だが縁側に座り、琵琶を奏でるのはまだ若い女。


 しかも美しい……。


 このように力強く、それでいて胸を締め付けるような音色を響かせるこの女は一体……?

 私は目を離すことができなくて、しばらくの間垣根越しに別館の縁側を見つめていた。