「とにかく、若殿はそろそろ身を固められた方がよろしいかと思われます」


 「なぜだ」


 「母上様を早くに亡くされ、母を同じくする兄弟姉妹もおられぬ若殿はかねてより、家族というものに憧れを抱かれていたではありませぬか。そのためにも奥方様を娶られ、家族というものを持たれるのが最善かと。そして御子が誕生すれば、斎藤家の後継者も定まり家中も安定……」


 「家族がそんなにいいものなら光秀、お前が妻を迎えたらどうだ」


 「いえ私は、若殿よりも年下ですし。まずは若殿が身を固めていただけませんと、家臣である私も妻を迎えられません」


 「そうか……。なら命令だ。お前が先に結婚してそれが幸せであると証明してみろ。証明されたら私も考える」


 何とか光秀を振り切り、自分の館に戻ろとした時だった。


 「勿論若殿のお気持ちが、一番大事ではありますが」


 突然背後から話しかけられて、私は驚いた。


 「若殿が素晴らしい姫君を迎えられ、斎藤家の跡取りを授かることが、我らが稲葉家、そして亡き姉の悲願であることはお忘れなく」


 「稲葉の叔父上」


 亡き母・深芳野の弟である稲葉良通(いなば よしみち)に呼び止められた。


 叔父とはいうものの年齢は一回り(12歳)しか離れておらず、叔父というよりも兄に近い存在だったかもしれない。