爪がピカピカに光っていた。
私の爪は、栄養が行き届いていなくて歪(いびつ)だ。
色も悪いし、ストレスでよく噛んでいるから綺麗とは程遠い。
それなのに今、私の爪は輝いている。
指だって、スラッと長くすべすべで、まるでピアニストみたいだ。
台所仕事に追われている手じゃなかった。
それだけじゃない。
私は思わず自分の体を抱きしめる。
こんなにウエストは細くない。
胸だって…張りがあるし、なによりこんな高そうな下着をつけている。
この体は──私じゃない。
私じゃない、誰か。
それってつまり…?
部屋の壁に、ふらふらと吸い寄せられる。
そこは、大きな鏡張りになっていた。
バレリーナが練習するかのような、大きな大きな鏡が壁一面を支配しているんだ。
自分の体を余すところなく、眺められるように。
あと一歩を踏み出せば、鏡に『私』が映し出される。
あと一歩。
その前に、両手で顔に触れた。
高い鼻筋に、長いまつ毛。
卵のような、ツルツルした肌。
そこにあるはずの、吹き出物はどこにもない。
まさか、本当に──?
ゆっくり、ゆっくりと一歩を踏み出す。