私が、盗った?


「だって、中学生のくせにブランドの財布なんて生意気なのよ。でも盗ったはいいけど、限定品だから売るとバラる恐れがあるし」


「まさか──それで?」


驚く私のことを、先生は鼻先で笑った。


「なにをそんなに驚いてるの?」と。


「だってあなたは、その為に存在しているようなものでしょ?」


「どういう、意味ですか?」


「クラスが円滑にまとまるための、サンドバッグみたいなものかしら?」


サンドバッグ。


どれだけ殴られても、やり返すことなく揺れているだけ。


「財布を盗ったのはあなた。これからもおとなしくいじめられるのも、あなた」


「そんな…」


「もう私はこんな仕事から解放されるの。せめてそれまでは面倒事を増やさないでね」


それだけ言い残すと、先生は出て行った。


1人、視聴覚室に取り残された私は、どす黒い闇に覆い尽くされてしまいそうで。


それを振り切るように廊下に出る。


どうしてか分からないけど、駆け出した。


追いかけてくる、絶望という名の影から逃げるように。


でも影はいつまでも追いかけてくるんだ。


影を消すには、完全に光も消さないといけない。


希望を消し去るしか──。