「…ただいま」
小声で言ってから、家の中に入った。
ドアを開けた瞬間、お酒の臭いが鼻をつく。
築年数50年、6畳一間のアパートは見渡す限りに散らかっている。
どれだけ片付けても、すぐまた散乱するんだ。
すぐにご飯の用意をする。
とはいっても、冷蔵庫には何もない。
そういえば昨日の夜も何も食べていなかった。
ううん、違う。
食べるものがなかったんだ。
せめて何か作ろうと、戸棚の奥を探していると──。
「なにこれ?」
急に真後ろから、低い声がした。
「えっ…?」
「これ、なんだって聞いてんの?」
母親の晴美が、どんよりとした目で私を睨んでいる。
その手に1枚のプリントを持って。
「それは、修学旅行の…」
「修学旅行だぁー!?」
下着しか身につけていない晴美が、ダミ声を上げた。
まだお酒が抜けていないんだ。
「あたしが寝る前も惜しんで働いてるのに、あんたは呑気に旅行ってわけ!?」
「ち、違う。私、そんなの行かなくていいから」
そう言って懸命に首を振った。
元々、行くつもりもない。
行ったところでイジメられるだけだ。
それなのに──。