これは悪い夢だ。


もうすぐ覚める、だからそれまでの辛抱。


よれた制服に着替えてアパートを飛び出した時もまだ、私はそのうち目が覚めるのだと思っていた。


学校に近づくと自然と俯きがちになり、周りの目が気になり出す。


ドンっ。


後ろから肩を押されて、地面に倒れ込んだ。


「邪魔!」


クラスメイトが、私を睨んでいる。


いつも私が通るだけで、びくびく震えているような女が。


「はぁー?あんた何を睨んでんのよ!」


「だって…」


「夕子のくせに!」と、腰を蹴られた。


その痛みよりも『夕子』というワードがショッキングで…。


土埃を払いながら立ち上がると、周りの生徒が皆んな笑っている。


私が『奥田夕子』だからだ。


それに気づくと、途端に逃げ出したくなった。


でも、このままじゃ…。


私が夕子になったということは、夕子が私になったということ。


とっ捕まえて、元に戻させなくちゃ!


誰とも目を合わせず学校に向かうも、教室に入る勇気はない。


物陰に身を潜めて、私の姿をした夕子が現れるのを待つ。


すると、廊下を歩いてくる私の姿が…。


「私を──返しなさいよ!」