――今日最後の6限目、苦手な漢文の授業で体力を奪われてげっそり。
帰りのホームルームのために担任が教室に入ってくるまでの間「んーっ!」と席に座ったまま上半身をのばした。
腕をおろすと心地よい脱力感。
少しリラックスできたかなと思ったら前からやたら盛り上がっている会話が耳に入ってきた。
「桐島、今週の本誌読んだか?」
「読んだ読んだ、まさかのあいつが裏切――「わわー!ネタバレ!」
斜め前の席の桐島ともう一人男子が週刊少年誌のネタバレを話し出しそうになって慌てて口を挟む。
「私単行本派だから!!その会話今禁止!!聞こえちゃうから」
私の介入にびっくりしている男子は置き去りに、
「あー、そっか瀬崎も読んでるんだっけか」
少し前にその作品の話で盛り上がった桐島が「悪いな」と意地悪そうににやけた。
「次出る新刊読んだらびっくりだろうなー。
先週はあんなことがあったし、今週も――「わー!私も早く読みたいー!!」
直接的なネタバレはしないものの、何かきっと急展開があったんだろうとわかる桐島の含みのある言い方に思わずネタバレを聞きたくなってしまう。
残りの男子も私がその作品が好きということを知り3人で話が盛り上がる。
ホームルームが始まるからともう一人が自分の席に戻ってからも、
「単行本って今どこまで収録されてんの」
「主人公に新しい能力が授けられてってとこ」
「あー、そこか」
桐島とは担任の話の合間に2人でこそこそ話し続けた。
漫画だったらジャンル問わず結構幅広く好きな私。
女子の友達には少年漫画読んでる人いないから
こういう話できるのすごい楽しい!!
「気を付け、礼」「さよならー」
どのキャラには生き残ってほしいなんて話を語っていると
気付けば学級委員の号令がかかりみんな解散していく。
「やべ、ホームルームなんも聞いてなかったわ」
なんて爽やかに笑い飛ばす桐島に「私もだ」と思わず笑い返す。
桐島って他の男子みたいにすかしてる感じもなくて、
すごい話しやすいんだよね。
お互い会話に夢中で帰り支度をほとんどしていなかったため
先ず机の横にかけていた鞄を机の上へ持ちあげる。
その間視線を感じて顔をあげると桐島とぱちっと目があう。
「瀬崎、今度さ――」
「真緒ー、かーえろっ」
桐島の低い声と後ろから私を呼ぶ声が重なった。
栞の一際大きい声でかき消されてしまった内容を聞き返す。
「あっ、えっと、桐島今なんか言ってた?」
「……いや、今度新刊出るの楽しみだなって」
頭をかきながら出た歯切れの悪い桐島の言葉を聞いて、
本当にそう言ってたのかな、なんて。
ほんとに?
そう返事をしようとして
「真緒?」
すぐ後ろから現れた栞に肩がびくっと跳ね上がる。
「ひゃ!」
「あはは、驚きすぎ!帰ろ?」
「う、うん」
すっかり支度が終わり帰る気満々の栞を見て、私も急いで机の中に手を入れる。
教科書はほとんどロッカーに入れているのに分厚いなにかがコツン、と手に当たった。
これ、そうだ……日誌!
やばー私今日日直だったじゃん!
「やばい、忘れてた!日誌書かなきゃ!!」
ハッとして机から急いで取り出す。
朝担任から日誌渡されたっきりすっかり忘れていた。
「え、合間合間に書いてなかったの?」
私を待って教卓の近くにいた楓花と瑠宇はやれやれと肩を落とす。
「あらー今から今日の分全部書くのか」
真緒しっかりしてーと笑う栞。
「大丈夫、10分15分くらいで終わるでしょう」
瑠宇が肩にかけていた鞄を降ろした。
3人とも私が書き終わるまで待ってくれるような感じだけど、
さっき今日はみんなそれぞれ放課後デートだったりバイトがあるって言ってた。
「ほんとごめんー、先帰っててー!」
待つよと言ってくれたけど
焦ると余計何書こうか思いつかなくなるからと
先に帰ってもらった。

