――「瀬崎さん、これ、ありがとう」
「はーいどういたしまして」
結城くんから差し出された薄手のトートバッグの中には、
貸していたいくつかの少女漫画が入っている。
今日の放課後は
学校最寄りから数駅隣の、前から気になっていたカフェに来ている。
やっぱり思った通り、
カフェのモダンな感じが結城くんに合うな……と目を奪われていると
「瀬崎さん?」
名前が呼ばれてハッとする。
「あっ、ごめん……漫画はどれが面白かった!?」
返ってきた漫画冊子たちを扇子のように広げて結城くんに見せると
「うーん、これ、かな
女性が男性のフリして歌手のグループに所属するっていう設定が斬新で」
今度アニメ化が決まった人気のタイトルを指差した。
「わー、私もそれ結構好き!」
そういう私に結城くんは
「でも、登場人物が多くてたまに難しいかも」
と少し困り顔で言った。
たしかに逆ハーレムものだから人も展開も多いし
慣れてない人には読みにくいかも……。
「あーそうだよね、
もっとシンプルな展開のやつ貸せばよかったな」
私の好みかどうかだけでチョイスしてしまったことを反省……。
「いや、俺が漫画自体元々あんまり読んでこなかったせいで、ちゃんと楽しんで読めたよ。
もっと色々読んで慣れていきたい」
前向きなコメントにホッとする。
「そしたら今回はいろんなタイトルの1〜3巻を貸したから、
この中で5、6巻くらいで終わる短めでシンプルなやつの続き貸すよ!」
そうやって私のオリジナルで設定した難易度的なものを少しずつ高めていけば、
途中で嫌になっちゃうこともないかなと頭の中で貸出スケジュールを組んでみる。
返ってきた単行本を束ねて持ち、前から後ろに差し替えたりする。
「色々考えてくれてありがとう。
読みやすさを考えてくれるのも嬉しいけど
純粋に瀬崎さんが好きな作品も知りたい」
結城くんがそう言ったタイミングで
一番前に来た単行本の表紙を彼に見せた。
「そうだなー、今回貸したやつは全部好きな方なんだけど、
これはかなりハマってたなー!」
『俺様クラスメイトによる溺愛に困っています』
中学生の時から連載していて、
去年の年末くらいに連載が終わった人気作。
「後はこの前の昼休みにも言ってたやつね、これ」
単行本の順番を入れ替えてまた別の作品の表紙を見せる。
「あぁ、俺が勝手に少し読ませてもらったやつ……」
その瞬間――
『お前は俺だけ見てろよ』
あの日の光景がフラッシュバックする。
少しむせながらも声を絞り出す。
「そ、そうそう!」
……やっちゃった、思い出すと動悸がするからなるべく忘れようとしてたのに。
自分で墓穴掘っちゃった。
この前の昼休みのこと数日たった今でも鮮明に思い出してしまう。

