「昨日駅前でうちの高校の誰かと一緒に帰ってたのを結構いろんな人が見てたらしいけど、肝心の彼女が誰なのかみんなわからないって!」
早めに教室に着いたらしい栞が
色んな人から情報収集をしたのだろう。
「それで本人に事実確認したい他クラスの女子が廊下でうろうろしてるのか」
私の後にきた瑠宇は、さっきより増えた廊下の人を、
何があったのか不思議に思っていたみたい。
それを聞いて自分の存在感のなさに少し悲しくなる。
……いや、結城くんがやたら有名なだけだよ。
あの場に私が知っている人は全くいなかったし
結城くんも反応的に同じだと思う。
一方的に知られていたって感じだった。
改めて結城くんの彼女になったことを実感したのはいいものの
これだけ話題になっちゃう人と付き合ってるなんて、
相手は謎のままでいいんじゃないかな。
なんて思ってると、
「あの結城くんの彼女だよ、絶対美人に決まってる!」
栞が曇りなき眼で力強くそう言った。
「んー、美人……というと、
今井ちゃんとか宝田さんとか――」
モテると有名な子とか去年の学祭ミスコン入賞者の名前があがるあがる。
やばい、これ私だって判明しちゃったら、
みんなの予想との落差すごくない?
ひえぇ、これはもう自分からカミングアウトする気になれないし、
私に話が振られる前に一旦離席しよう……!
いたたまれなくて教室から出ようとすると
廊下のざわつきが増した気がして
その瞬間中へ入ろうとしてた誰かとぶつかる。
「あ、瀬崎さん」
昨日ぶりの結城くんに心臓が飛び出そうなほど動揺する。
「おはよう」
さっきまでメッセージの返事がなかった理由として想像していた、
やっぱり嫌になって気まずく避けられてしまうことにはならなくてほっと胸をなでおろす。
「おはよう!」
変わらず優しく話しかけてくれることが嬉しくて、
いつもの挨拶より明るく返すと
「昨日メッセージ返せなくてごめん」
ドアからすぐの自分の席へ鞄を置きながら
しょんぼりした小動物のように私に謝る結城くん。
朝から破壊力が高いっ!!
「う、ううん大丈夫!」
ぐっと胸のあたりに衝撃が走り思わず抑える。
返事がなかったことが不安だった今朝の瞬間が嘘みたいに安心する。
「彼女とメッセージのやり取りとか初めてするから
何かスタンプとかでコミカルに返そうとしたんだけど……」
一生懸命説明してくれる結城くんがかわいくて、
うんうんと微笑んで聞く。
「でも俺スタンプ持ってなくて、そもそも買い方がわからなくて、
夜通し調べてたら返しそびれてしまって」
そんな気を使わなくていいのに、と笑うと
「今朝兄に聞いてそのおかげで買えたから今日から使うね」
そんな流れがあり今朝は登校するのが少し遅くなったと
結城くんは珍しく緩んでいた首元のネクタイを締めた。
「うん、楽しみにしてるね!」
一通り会話を終えると、
「そういえば瀬崎さん、どこか行くところだった?」
自分の席から離れたここに私がいたことを不思議に思った結城くんに尋ねられて
あれなんで教室出ようとしてたんだっけ、と思ったのももう遅く、
違和感に気づき振り返ると教室中がこっちを見て静まっていた。
…………ああ、これはやばい。
その場にいたほとんどの人の驚きの声や悲鳴とともに
チャイムが鳴り響いた。

