結城くんと青春したい!


――「真緒(まお)おはようーって、危ないから前見な!」

近距離で自分の名前を呼ぶ声がしてはっと顔を上げると、

目の前には昇降口のドア。

気付かないうちにすっかり下駄箱に着いていた。

後ろから肩をポンと叩かれて慌てて後ろを向く。

「楓花(ふうか)!びっくりしたぁ、おはよう!」

「また‟ながらスマホ”してたでしょ、やめなよー」

「はぁい、気を付けます」

もう少しでガラスのドアにぶつかりそうだったことと
肩を叩かれたことにダブルで驚いたせいで心臓がかなりドキドキしている。

落ち着かせるようにゆっくり息を吐いてスマートフォンの画面をオフにした。

学校の最寄駅を出てからずっと画面に夢中で
とっくに学校に到着していたらしい。

通って2年目にもなると道を確認しなくても自然と足が向かうから、
つい更新されていたWEB漫画を読みながら歩いてしまう。

高校2年生になって1か月と少し、
この前は無意識に去年まで使っていた1年生の下駄箱に行っちゃったのは我ながら笑えたな。


ローファーから、かかと部分に瀬崎(せざき)と書かれた上履きに履き替える。

「中学まではスマホ持ってくるの禁止だったから
いくら漫画大好きな真緒も学校にいる間は真面目だったのにね……」

「うぅ……返す言葉もございません」

さっきもドアにぶつかる前に声をかけてくれたしっかり者の楓花に呆れられる。

朝からちゃんと支度をしたんだろう楓花の可愛いミルクティーブラウンの長い髪はゆるく巻かれていて、

ギリギリに起きて適当に結んだ私のポニーテールとの違いが際立つ。

中学で部活をしていた頃は同じ黒髪でショートだったのに、今じゃ大違いだ……。


楓花とは当時同じバレー部で彼女が部長、私が副部長になってそれからずっと仲良し。
去年はクラスが離れちゃったけど、今年は同じクラスになることが出来て一緒に教室へ向かう。


――教室のドアを開けると窓際近くに座っている栞(しおり)と瑠宇(るう)と目が合う。

「楓花、真緒、おはようー!」
少しクセっ毛なミディアムをふわふわ揺らし手を振る今日も元気な栞と

「2人ともおはよ」
黒髪のボブを耳にかけながらにっこりするクールな瑠宇。

ちょうどそのあたりに席がある楓花は「おはよう!」とまっすぐ2人の元へ。

私はドアを閉めていると視線を感じて、
ドアに一番近い列の最前席に座る結城新(ゆうきあらた)くんと目が合った。

「ゆ、結城くん、おはよう」
「……はよう」

今月に入って席替えがあってからこの席になった結城くんとは
たまに朝こうやって挨拶をするようになった。

多分前を向いているだけだと思うんだけど、
私が教室に着いたタイミングでこっちを見ている気がするんだよね。
目が合ったのに無視するのも変だし。

まあ、挨拶したからといって常に無表情の彼から大きな反応はないんだけど……。

友達にする挨拶とは違う控えめな私の挨拶に
少し聞こえづらいけど必ず返事はしてくれる。

騒がしい自分と彼の冷静なテンションのギャップのせいか、
それとも朝からキリっとしている端正な顔立ちと向き合ったからか、

毎朝この瞬間は急激に緊張してそわそわしてしまう自分が恥ずかしい。