結城くんと青春したい!



「うん、
歴史としては浅い方だけど流派のひとつを継いでいて、

今の当主は父なんだけど、
先代になった祖母も引き続きお稽古としていろんなところで教えたりしていて――」

現実離れしている内容に、
ふと御曹司と普通の家庭の主人公との身分差ラブがテーマだった少女漫画が思い浮かんだ。

「一応跡継ぎは兄なんだけど、俺も手伝い程度では関わっているから
去年とかも放課後や週末にクラスのみんなで遊ぼうって日にも俺は参加できない事が多かったんだ。

それに小中学校は家から少し遠いところに通っていて、
周りの同級生も勉強仲間って感じで学校外で遊んだりするほど交流してなくて。

今まで放課後とか休みの日遊んだりできなかったから、楽しみ」

結城くんが世間離れのド天然な原因はそういうことだったか。

さらっと言った出身中学校の名前も、
隣の県のめっちゃ偏差値高い男子校だし。


勝手に近寄り難いなんて周りに誤解されているけど、
それは今までそういう経験が少なかったからなんだと思うし

話してみると少し不思議な距離感ではありつつ
冷たいとか無愛想なんてことは一切ない。


学校の人たちはこういう結城くんの一面を知らないんだな。
現に私も今日まで結城くんがこんな風に穏やかなこと全然知らなかったしね。


「うん……よし、色々計画立てよう!

結城くんのやってみたいことも、たくさん!」

純粋に今まで出来なかったことを体験してみたいという結城くんの気持ちに触発されて、
俄然やる気になった私は目の前の彼に笑いかける。


目の前に整ったお顔があることに改めてはっとすると、
なんとも言えない虚しさが少し芽生える。

「まぁ私の場合はいつかできる彼氏とって思ってたんだけどね……」

あくまで友達として、としか思っていないだろう結城くん。

一緒にいろんなことを叶えようと意気込んだはいいものの、
私の場合、放課後や休みの日に遊んだりっていうのは今まで友達とたくさん経験してきた。

元々いつか彼氏が出来たら叶えたいって憧れてた内容だったから
正直結城くんと放課後や休日に遊んでもこれまでとなにか差はあるのかななんて。

でも今までなかなか遊べない生活だったという話も聞いちゃったし
ぜひ結城くんも楽しめることで一緒に楽しめたらいいななんて思えたんだよね。


彼氏と青春したいという自分の理想が叶うわけではないけど、
面白そうな結城くんと遊ぶという新しい楽しみが増えて
まず何からやろうか!なんて言いかけたところで

「彼氏?」

思ってもなかったところに言及されて
口を開こうとした出鼻をくじかれる。


「あぁー、えっと……」

言うのは少し躊躇われるけど、
きっと茶化されたりしないだろうなと期待して、
スカートの裾を直しながら説明する。

「私、漫画が大好きで、
登場人物たちがカップルで青春!って感じで楽しそうに過ごしているのが憧れで。

自分も高校生になったし、
そんな学生生活をすごしてみたい!ってずっと思っててね」


なんか改めて言語化して
人に話すの恥ずかしいな。

話し終えて恐る恐る結城くんの方を見ると

「そっか、瀬崎さん友達も多そうなのに
なんで今更俺と?って思ってたけど、
‟彼氏”である必要があったのか……」

ちょっと難しそうに考え込み
今まで軽快だった返事が返ってこなくなる。

もしかして彼氏にはなれないからってこの話無かったことになっちゃう?

「そ、そういうの気にしなくていいよ!!
楽しめたらそれで!」


慌てて訂正する。

あれ、私、この話が無かったことになることがすごい嫌みたい。


「関係性とか気にしないで、
結城くんも今までやってみたかったこととか教えてよ!」

「うん……」

無理やり話を進行する。