結城くんと青春したい!



チャイムの余韻が響く中運動部の掛け声や
吹奏楽部の楽器の音が耳に入り込んできた。

止まったかと思っていた時間がまた動き出したような感覚。

「わっ、わぁー!ごめん!!ありがとう!!」

一気に意識が現実に戻り、
お礼を言いながらつかまれている腕をぶんと振る。

「いや、よかった怪我無くて」

落ち着いた表情の結城くんが私の腕を手放す。

彼はそのまますっと移動しゴミ袋を結び始めた。

そんな何事もなかったような様子に呆気にとられる。


私も、もう帰らなきゃ。


足元がふわふわのまま自分の席に戻って日誌を手に取る。

再び席について書く作業に入る気になれず
もうこの中途半端な感じで提出してしまおうと思う。

夢見心地でシャーペンを筆箱にしまっていた手が止まる。

……結城くんのこと冷たくて無愛想な人と思っていたけど、
黒板一緒に消してくれて、転びそうになったら助けてくれて、
今まで私が持っていた印象の彼とはまるで別人みたい。

少しわかりづらかったけど、
こんなにいろんな表情をするような人なの?


――ちょっと待てと内心言っている自分がいる気もするけど、
転ぶ寸前掴んでもらった腕のところから全身に熱が走る。

結城くんに抱いていた印象がガラッと180度変わると共に
熱に浮かされた思考にかすかな予感がよぎる。


この人となら、
もしかして思い描いていた青春生活を過ごせるかもしれない。


一度感じ始めたら止まらない抑揚。

さっきの助けてもらった流れは
私の好きな漫画のお気に入りのシーンに似ていて、

まさに自分が理想としていたそのものだった。

今朝楓花たちに言われた、
これまでの私に足りていないのは積極性。

――それなら!

「ゆ、結城くんっ!」

結び終わったゴミ袋を教室のドアの近くに置き終わった背中に話しかける。

続いてさっき私がつまずいた箒を拾おうとしていた手を止め、

結城くんがこっちを見る。

まっすぐぶつかる視線は
なんでだろう、くすぐったいのに外す気にはならない。

それ以外は考えられない程浸食されてしまった思考のせいで
なんて伝えるかしっかり決める前に先に口が動きそのまま声が出た。


「私、結城くんと青春したいです!付き合ってください!」


力いっぱい言い終わると無意識にへらっと口角があがった。


結城くんの整った切れ長の目がぱちぱちっと激しめのまばたき。


「「…………」」


訪れる沈黙。

激しく動いたわけでもないのに呼吸が浅くなっていた。


……ん、あれ?私、今なんて言った?


脳内で浮かんでいたことをそのまま言っちゃった。


結城くんの方を見ると一瞬眉がぴくりとして
さっき見てしまった昼休みの告白の光景を思い出す。

『意味が分からないんだけど……』

あの時女の子にそう言った結城くんと、目の前の彼の姿が重なり

顔から一気に血の気が引いていく。


向けてくれた優しさはクラスメイト故だったとして、
恋愛においては冷徹漢な姿を知っているんだった!


冷たく突き返されて、変なやつと思われた結果
気まずくなるのは避けたい。


今度は一瞬のうちにめまぐるしくなった脳内から言葉を絞り出して口を開く。

「あ、あのっ!今のは!!――」

「はい」

遮るように届いた言葉を
無意識のうちに聞き間違えだと判断し

「へ?」

なんて間抜けな声を出して聞き返してしまった私に
なぜか結城くんは近づきだす。


あれ、『はい』って言ったよね。

え、え、どういうこと。

まさか‟いいよ”の意味ではないよね。
‟お前頭大丈夫か”ってニュアンスとかだよね?


混乱して両手で頭をおさえる。

パニックになっている間にすっかり私の目の前に来ていた彼は
私が困惑している理由がよくわかっていないだろうきょとんとした顔つきで、

再度口を開いた。

「えっと……俺で、よければ」