お稽古が終わればすぐ部屋に戻ってお仕着せに着替え、厨房にダッシュです。これからが私のリフレッシュ時間だから、全然苦にならないもんね。だってこれが私の切り替えスイッチだから。さっきまでの『お妃候補のライラ』から『下っ端メイドのライラ』へジョブチェンジです。

「今日は温かいおやつにしようかな〜。あ、スフレを焼こうか。それで、クリームはカスタードにしましょ。明日のおやつ用にジャムも作っておきたいわね。そして晩餐のスープは、早速アラの味噌汁にしてみよう」
 あれもしたい、これもしたい。おやつやスープのことを考えるのも、すっごく楽しい。こうでなくっちゃ、私の生活は。
 作ってあげたいものはたくさんあるけど、とりあえず今日のおやつに、竜王様には温かいスフレを、時間差で食べる使用人のみなさん用にはパンケーキを作ることにしました。私が竜王様のおやつを用意してたら、厨房につまみ食いに来たバーガンディーさんが覗き込んできました。
「え〜ラファだけずるくないか?」
「だって竜王様は特別ですもん」
「チッ惚気やがって」
 いや、そう言う訳じゃないですけど。竜王様には美味しいものを美味しいままに食べて欲しいだけですよ。勝手に絡んで、勝手にやさぐれて、忙しい人ですねぇ。
「おい、マゼンタ。俺もスフレ食べたい」
「は? なんで私なんですか。そこのライラに頼んでくださいよ。私は忙しいんです」
 今度は通りがかったマゼンタに絡んだけど、冷たくあしらわれたようです。忙しい時のマゼンタは怖いからな〜。
「まあまあ、バーガンディーさん。パンケーキも美味しくできてますよ。大人しく食べてお仕事に戻ってください。じゃないと竜王様にチクりますよ」
「ちぇ〜。うわ、あっち!」
「当たり前でしょ、素手で持ったら熱いに決まってますよ」
「あっち! うっま。じゃあな〜」
 私にも軽く流されたからか、パンケーキを何枚か手に取ると、仕事に戻っていきました。