「あー。確かにそんな事もあったっけ」
「うん。
そのお金いつかナツキに返そうと思ってたんだけど、使っちゃった。
ごめんね」
「いや。未央にあげた物だから、構わないけど」
そんなこの人の頬には、
あの日、カッターナイフで傷付いた、あの傷跡が、残っている。
もっと日が経てば、それはもっと薄くなるかもしれないけど、
それが消える事はないだろう。
「その傷…やっぱり残ったんだね」
私のその言葉に、彼はその傷に触れた。
「うん。そうそう。
ボーと自転車乗ってた俺も悪いんだけど。
いい歳して、自転車で転けて。
こんな傷負ってたら恥ずかしいよね」
そう、涼しい顔して笑っている。
えっ?自転車?
転けたって、何?
ナツキは絶対に自転車に乗るようなキャラじゃなかったし、
その傷が付く瞬間を、私は目の前で見ていたし。
周囲を見ると、このホームに入居している人達や、私を此処に通してくれた職員の男性。
その他の職員の人達も、私達の方を見ている事に気付いた。
「この傷、自転車で。
ね、未央?」
そう問いかけられ。
ああ、なるほど。
此処ではその傷の事は、そう言う事になっているのだと気付いた。
別れた女にカッターナイフで切られたなんて、
目の前の温厚そうに笑うこの海宝久志さんには、考えられない事だろう。
「うん。
そのお金いつかナツキに返そうと思ってたんだけど、使っちゃった。
ごめんね」
「いや。未央にあげた物だから、構わないけど」
そんなこの人の頬には、
あの日、カッターナイフで傷付いた、あの傷跡が、残っている。
もっと日が経てば、それはもっと薄くなるかもしれないけど、
それが消える事はないだろう。
「その傷…やっぱり残ったんだね」
私のその言葉に、彼はその傷に触れた。
「うん。そうそう。
ボーと自転車乗ってた俺も悪いんだけど。
いい歳して、自転車で転けて。
こんな傷負ってたら恥ずかしいよね」
そう、涼しい顔して笑っている。
えっ?自転車?
転けたって、何?
ナツキは絶対に自転車に乗るようなキャラじゃなかったし、
その傷が付く瞬間を、私は目の前で見ていたし。
周囲を見ると、このホームに入居している人達や、私を此処に通してくれた職員の男性。
その他の職員の人達も、私達の方を見ている事に気付いた。
「この傷、自転車で。
ね、未央?」
そう問いかけられ。
ああ、なるほど。
此処ではその傷の事は、そう言う事になっているのだと気付いた。
別れた女にカッターナイフで切られたなんて、
目の前の温厚そうに笑うこの海宝久志さんには、考えられない事だろう。



