「別に、俺は意地悪で反対してるわけじゃなくて…。
もう受験迄時間だってないのに…」



松永先生は困ったようにため息を付くと、
スーツのポケットから、ボールペンを取り出した。


机の上に置いていた紙の束の一枚に、

何かをつらつら書いて行く。


「俺が大学受験の時に使って良かった参考書だ。
内容は多少変わっているかもしれないが。
後は…A出版のシリーズとか…」



真剣に、その他の参考書の名前を思い出そうとしている松永先生の顔を、
マジマジと見ていたからか。


松永先生は訝しげに私を見返して来る。




「松永先生って、本当はいい先生なんですね…」



「は?なんだそれは」


そう言って、少し恥ずかしそうに笑っている。



その華やかな容姿に捕らわれて、私は松永先生を軽んじていたのかもしれない。


この人を、先生だと尊敬する気持ちを忘れていた。



多分、私だけじゃなくて、他の女子生徒も。


この人を教師じゃなくアイドルみたいに思い、
楽しんでいた。



「安達、そんな風にすぐに人を信用していたら、
また痛い目見るぞ」


その言葉には、苦笑するしか無かったけど。