「ホスト辞めたから、少しだけお客さんの話をしてあげる」


そのお客さんって、
きっと私の母親の事なのだろうな。



わざわざ、私に話すのだから。




「彼女、よく娘の話をしてたよ。
名前とかは言って無かったけど、高校生の娘が居るって。
去年の夏俺が店に誘った日に、今日は娘の誕生日だからって断られた事有ったな。
職業柄、人の誕生日覚えるのが得意で。
なんでか、俺、その娘の誕生日迄覚えてしまってて」


そう言えば、去年の私の誕生日は、
母親はケーキをも手作りしてくれていた事を思い出した。


今年の私の誕生日は、もう離婚した後だから、何も無かったけど。


誕生日おめでとうの電話さえもなくて。


そんな事を思う私は、その電話待ってたのかもしれない。


「俺のお客で、結婚してる人も子供も居る人も珍しくないけど、
いつも娘の話してたのは、その人だけだった。
みんな俺なんかに、そんな話したがらないから。
なんなら、触れて欲しくないように隠すのに」



「じゃあ、なんでいつも私の事放っておいたの?
挙げ句にホストなんかにハマって!」



私は怒りからか、体を起こし、
ベッドに寝転んだままのナツキを睨む。


ナツキは、無表情で天井を見ている。


「母親も女だからとかは思わなくてもいいけど。
彼女も人間だから、色々あるんじゃない」


ナツキのその言葉に、
納得出来ないけど、言い返す言葉も出なくて。


再び、私はナツキに寄り添うように寝転ぶ。


ナツキは、そんな私を抱き締めてくれる。


本当に、時が止まればいいのに。



居なくならないでよ。