その日の夜。

 そろそろ晩御飯だなと思って、自分の部屋から出ると。


「あ、枝乃~! ちょっと黒霧くんが家の中にいないのよ。もうすぐご飯できるから、呼んできて~!」


 台所から廊下に顔を出してきたお母さんが私に言う。

 私は露骨に顔をしかめた。


「えー、なんで私が……」


 黒霧とは喧嘩しちゃってて、今は気まずいっていうのに。


「白亜に頼んでよ~。いるんでしょ?」

「白亜くん、晩御飯の準備手伝ってくれてるの! あんたは暇そうなんだからそれくらいして!」


 そう言うと、お母さんは私の返事も待たずに台所へと引っ込んでしまった。

 白亜、ご飯の支度を手伝うなんてことしてたんだ……。

 白亜っていいやつだし、いつも優しそうに笑っているけど、どこか腹のうちが読めないというか、飄々としているというか……。

 神様候補としては立派な志を持っているみたいだし、いい奴そうではあるけどねえ。

 なんとなく、うちのお母さんを味方につけるために晩御飯を手伝ってるんじゃないだろうかって私には思えた。

 そんなことを考えながらも、堪忍した私は黒霧を捜した。

 社務所兼家の中にはいないそうだから、いるとしたら本殿や拝殿の方や、境内だろう。

 神社の敷地の外にいるかもしれないけれど、さすがにそこまで捜す気はない。