私は焦ってブレーキを握った。
人に触れるか触れないかで止まる。
その人もどこかに向かって歩こうとしていたのだろう。
私に気づいたのか、固まったように立ち止まった。
わ、わわわわ
私の心臓はバクバク言い始めた。
とりあえず、自転車から降りて謝らなきゃ。
「すいません。お怪我は、ありませんか?」
私は怖さで出にくくなった声を引き絞った。
「……」
相手は何も言わない。
背が高い若い男の人。黒髪と白めの肌に、スッと鼻筋が通った顔。
芸能人?
きりりとした鋭い目線が黒縁眼鏡から私に刺さる。
じわじわと怒ってるような、そんな気がして、頭の中が真っ白になってしまった。
「お前、ぼーっとするな」
「あっ、すっ、すいません」
低いけれども通る声で現実に戻される。
「わっ、私の不注意で、もっ、申し訳ありません。あの、お怪我は」
「おかげさまで無傷だよ。まったく、久し振りに出歩いたらこれかよ」
嫌味を言う男の人。
怖いのに、どこか気品を感じてしまった。
「お前、五月学園だろ」
えっ

