「こっち見るな」
背の高い裕哉様は、私を目線で見下ろしながら言った。
遠山さんとはまた違った圧がある。
裕哉様…やっぱり自転車でひきそうになった人だ。
そりゃ写真見て引っかかるわけだ。
ハンカチを借りたままだって事も覚えてる。
あのハンカチの刺繍は紫桜院家の家紋だ!
裕哉様も気づいてるかな…
私が男装してるから、気づかないかな。
「新しく執事になりました、藤咲泉です。今日から裕哉様のお世話をさせていただきます」
「嫌だよ」
「えっ」
「そもそも執事はいらないし、子犬みたいな奴に世話されたくもない」
「子犬じゃないです!」
「お前いくつ?10歳?」
「16です!」
「じゃあひとりで帰れるな」
「えっ」
裕哉様が怖くてとても言い返せそうにない。
裕哉様は何事もないように部屋の中へ戻った。
…いやいや!
そこで諦めたら仕事になんてならない!
時給分の働きをしないと!
私はドアが閉まりきらない内に部屋の中に入った。
「ちょっ、おまえ」
部屋の中はテレビで見る高級ホテルのスイートルームの様に豪華で広い。
そして天井がとても高い。
「何かご命令はございますか!」
私は裕哉様に向かって大きめな声で言った。
そうでもしないと圧力に負けてしまいそうだった。
「俺に執事はいらない。出ていけ」
「それ以外のご命令でお願いします!」
「ない」
裕哉様はそう言いながら、大きいソファに座ってテレビを見始めた。
私は無性に悔しくなってきた。
どうしよう。
思い出せ、思い出せ
遠山さんから教わった執事の3大要素…紅茶、体力、知識
あっ、そうだ!紅茶を淹れよう!
「紅茶を!淹れてきます!」
「……」
裕哉様は私のことをじっと見たあと、
「勝手にすれば?」
と言って、目線をテレビに戻した。
私は小声で、
「勝手にさせて頂きます」
と一応言ってから、キッチンへ向かっ……
「あのー、キッチンって」
「あっち」
「すいません」
私は裕哉様の指差す方へ行った。

