頭の中でそのやり取りを思い返しつつ、裕哉様の部屋の前に来た。
執事室の比にならないくらい立派な扉。
「着いたら必ずノックね」
「はい」
案内してくれた白木さんは扉に付いているライオンの飾りを使い、コンコンとノックをした。
少しの静寂のあと、
「なに?」
ライオンの飾りから男の人の声が出た。
少しだけ…聞き覚えがあるような、無いような…
「メイドの白木です」
「洗濯物は無い」
「新しく専属執事が入ったのでご紹介に参りました」
「またか。いらない」
白木さんは僕の背中を押した。
ライオンの飾りをよく見ると、カメラが付いている。
「藤咲です。よろしくお願いします」
「……」
ライオン越しにご主人様の声が聞こえない。
まだ会っても無いのに嫌われるの早くない??
プルルル プルルル
突然、白木さんがポケットからスマホを出して電話をし始めた。
「はい白木です。はい、はい、承知しました」
白木さんは電話を切ると私の方へ向いた。
「あとはひとりで頑張って」
白木さんはそう言って去ってしまった。
私はドアの前にひとり。
もう一度ノックをすべくライオンの飾りがついた金具を握ろうとした瞬間、扉が開いた。
「ありがとうございま…あっ」
そこには黒ぶちメガネできりりとした顔立ちの、背が高い男の人が立っていた。
この方が裕哉様…
見覚えのある顔。なんだったかな。
「あ、あああ!」
思い出した!
この前私が自転車でひきそうになった男の人だ!

