面接の時、待合室になっていた執事室の小さな廊下。
そこにあるドア一つ一つが執事の部屋らしい。
中にはスーツが入ったウォークインクローゼットと簡単な机と椅子、仮眠用のベッドがある。
執事たちはひとり一部屋もらえて、そこで着替えや日誌を書いたりするらしい。
私は自分の部屋に入り、スーツに着替え始めた。
白い、シワひとつないワイシャツを着てから、淡い紫のベストを着て、首元に濃い紫のクロスタイをつける。
首周りほどの短いネクタイをばってんに交差させて、ピンで留めるだけなのでつけやすい。
それから、優しい色合いのグレーのスラックスと、同じ色のジャケットを羽織り、黒い革靴を履けば、執事の泉だ。
全身鏡を見てみよっと。きっとかっこいいぞ
……
初めてスーツを着たけど、まだ着せられてる感がある。
なんていうか、七五三で初めてスーツを着た子供ってこんな感じかもしれない。
男装初心者あるあるなのか、なんだか不安になってきた。
私はカバンからノートを取り出して、机の上に広げた。
遠山さんから教わった紫桜院家の基本情報をここにメモしていた。
初出勤なので、しっかり頭に叩き込まないと!
私はノートを見ながら、遠山さんの教えてくれたことを思い出す。