重い学科長室の扉を閉める。


「はぁ」


完全に閉じた後、扉を背に溜め息を吐いた。

長く深く、決していい物ではないため息。


困った。本当に困った。

バイト掛け持ちしてる今でさえギリギリなのに。

これ以上バイト増やしたらヴァイオリンの練習が全く出来ない。キツイな。


時給高いバイト無いかな。

バイトを掛け持ちしなくてもいけるくらいの、なんなら今よりもっと練習の時間が作れるくらいの。


私は廊下をゆっくり歩きながら、スマホを取り出した。

楽しそうに話しながら歩く同級生たちと何回かすれ違う。

無意識に操作していたスマホの画面には、紫桜院グループのサイトを出していた。

割と上の方に執事バイトの募集文が載ってる。

沙耶の言ってたことはホントだったんだ。


時給3,000円。時給3,000かー

アルバイトは週40時間までだから、1週間で12万円。

ひと月を大雑把に4週間として、1ヶ月で48万円。


ってこれ、社会人でもここまでお給料もらえないくらいの大きい金額。

それをただの女子高生が……


「男装しよう」


昨日ファミレスで沙耶が言った一言を思い出した。

でもそんなの無理だよ。


と思う前に、私は沙耶に電話をかけていた。


「私、執事やりたい!」