次の日の昼休み、私は音楽科の学科長室に呼ばれた。
厚い茶色いソファとテーブル、奥に学科長の机が置かれた小さな部屋。
テーブルの上に置かれた小さな花瓶と小さなブーケに違和感を抱くくらい、部屋全体が重々しい雰囲気。
ここには面談で何度か来てるけど、この雰囲気にまだ慣れることができない。
ソファに座る私、と向かいのソファに座っているおじさまと背の高い綺麗な女の人。
学科長とヴァイオリン専攻の担任である篠木先生だ。
2人の間には微妙に重い空気が流れている。
「申し訳ないね和泉さん」
いつもはスマートなおじさまの様な学科長が、いつもの何百倍も暗い声で切り出した。
私は学科長から1枚のプリントを受け取り、読み始める。
どれどれ
「学習支援金減額のお知らせ」か
今まで無料だった学費を、来月から毎月10万円払わないといけな……
「へっ!?」
私は向かいの2人の顔を見た。
篠木先生は「ごめんね」と言うかの様に、首を縦に振る。
「理事長の方針でね。和泉さんは優秀な特待生だからね、和泉さんだけはと話したんだけどね」
学科長の説明も右から左へ流れてしまう感覚。
頭が真っ白になってきて、なんて言えばいいのかわからなくなってしまった。
考えろ藤乃。バイトもう一個増やす?
分身の術を使えば掛け持ちもできるかもしれない。
退学は絶対にしたくない!
待って。そもそも私は分身できない。
「ほんとにごめんなさいね」
いつもは明るい篠木先生が、悲しげな声で謝ってくる。
私は憧れのこの人から学びたくてここに入ったのに、まさか、憧れの人から謝罪されるなんて……!
心配かけないようにしないと!
「あっ、いえ、大丈夫です。どうにかやってみます!」
「和泉さんほんとに大丈夫なの?」
「はい!学校も辞めません!また何かあったら相談させてください!」
私は出来るだけ気丈に振る舞うことにした。
篠木先生の悲しい顔は見たくない…!
「何かあったら僕たちに相談しなさい」
「ありがとうございます!」
私は篠木先生と学科長に礼を言い、学科長室を出た。