しっかりとした明朝体で書かれている情報。

でも待って?執事?

これはいたずらでしょ?

こんな話、あるはず無いもん。

しかも紫桜院って言ったら、食品や土地とか色んな事業を展開していて、世界一儲かってると言われてる企業。

そんな大企業のご主人様のお世話が、バイトになんか勤まるはずがない。


「読んだ?あとでスクショ送っとくね」

「読んだけどさ」

「たまたま同じ部活の子が見つけてさ、時給高くない?」

「そうだけど、私なんかに執事とか務まらないし、それに、現実的じゃなさすぎて逆に怪しい気がする……」

「いや、ガチ。紫桜院グループのサイトにも載ってるから。後で見てみ」

「そうだとしても、ねぇ」

「今度はどうしたの?」


沙耶は大事なところを見落としていた。

そもそも、これ、

「男の人しか受けられないって書いてあるけど」

「あ」


沙耶は画像を見返し、「んん」と声を漏らした。


「男装しよう」

「いや、急」

「手ぇ貸すけど〜」

「和泉さん!注文!」


沙耶との話が長すぎたのか、副店長に見つかってしまった。


「すいません!今とります!」

「藤乃ごめんね」

「見つけてくれてありがとね。注文決めた?」

「えっとね、太っちょチキンステーキと、コク深ビーフシチューと〜」


執事バイトの話はここで終わり。


のはずだったけど、それからバイトを終えて、家で寝るまで、私の頭の中から執事が消えてくれなかった。

時給がめちゃくちゃ高い…

もし執事になったら、バイト掛け持ちしなくても生活が出来るかもしれない。

なんならヴァイオリンの練習する時間も取れるかもしれない。


うーーーーんんんんん!!!!


私が男の子だったらよかったのに!