まだ馴染めないスーツのポケットから支給品の懐中時計を取り出す。
終業時間はまだまだ先だ。
「子犬!」
ご主人様が私の目の前に立った。
眼鏡の奥の感情の読めない眼差しのまま、私に手を出す。
「お手」
「いきなり」
「ん?」
「僕は子犬じゃないです!」
「お手」
「ん〜〜〜」
私は仕方なく、ご主人様の手のひらに手を乗せる。
何度目だろうこのやりとり。
時を戻せるなら、面接なんて受けなければ良かったのに!!!
「よしよし。子犬、褒美だ」
ご主人様はもう片方の手に持っていたビスケットを私の口に入れた。
「こいぬじゃないでふ!」
ん、このビスケット美味しいな。