カナダに来い！？…ていうか私もじゃんっ！？
急な話すぎて、頭がクラクラする。
「私は──カナダに行きたくないよ！」
だって、私は高校生だし。学校に友達がいる。
友達と離れたくないし、私はこの街が好きだから…。

ママは、困ったように頭をおさえた。
「そうよね……。どうしましょ」
やっぱり、日本に残ることは難しいみたい。
国内ならまだいいんだ。
国内なら、まだ気軽にこの街に入ることができる。
けど、海外となると──日本に入ることにも時間がかかって、さすがに気軽とは言えない。
…私は、この街に残りたい。
ならば！

「私っ！ひとり暮らしするから！」
「……へっ？」
ママの口から、マヌケな声が出る。
私は、すっかり冷め切ってしまったコーンスープを飲み干して、ママの目を見つめた。

「いつかは帰ってくるんでしょ？なら私、この家で待ってることにする！それなら、良いでしょ？」
ママは唖然(あぜん)とした様子で、私をまじまじと見た。
「唯、ご飯作れるの？」
「…つ、作れるよ！」
……作れないけど。
「洗濯機の使い方、分かるの？」
「…わ、分かってるし！」
……知らないけど。
ママは、「ふぅ」とため息をついて、コーヒーを一口飲んだ。
「そこまで言うなら仕方ないわね…。お母さんがカナダに行くまでの二週間、練習として家事に取り組んでちょうだいね？」
「えっ？」
「どうせご飯も作れないでしょ、唯はおっちょこちょいだもの。」
ママはチラリと私を見た。何でもお見通し、と言っているかのように口角を上げる。
「花嫁修行みたいなものよ、頑張ってね唯♡」
「ひぇぇぇぇえ…」

…こうして、私の花嫁修行（？）が幕を開けたのだった。