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「……どうしたんだろう」

 何度電話を鳴らしても雄飛は出てくれなかった。

今頃は都内に着いているはずなのに。

マンションのリビングで私はスマホの画面を見つめる。

五百万を返却して正々堂々と結婚できると思ったのに……、社長のあの言葉を思い出すと心が騒めく。

『ユウヒはどう思っているかしら』

 雄飛は私と同じ気持ちじゃないとでもいいたげだった。いったいどういう意図があるのだろう。

「ママ」

 その声にハッとして顔をあげた。

「朝飛。おいで」

 寝室から出てきた朝飛を抱きしめる。

「どうしたの? 眠れない?」

「……ママ。パパに電話?」

「そうだよ。でもお仕事中みたい」

 どうして出てくれないの。まさか、このまま連絡が取れなくなるなんてことがあるはずはないよね。

「さあ、朝飛。おしっこしてねんねしよう」

 私は朝飛の手を引いてトイレに行き、それから寝室へと向かった。

「お布団はいろうか」

「……ママ、いかないで」

 私の不安な気持ちが伝線したんだろうか。朝飛は私の手を握って離さない。

「大丈夫だよ、ここにいる。どこにも行かないよ」

 朝飛の隣に寝転んで、スマホを枕の下に差し込んだ。