教科書とノートをリビングルームのローテーブルのうえに開くと、莉生と並んで座る。



「だから、この問題はさ……」



数学の解法を説明しながら、動きを止める。



「莉生、聞いてる?」



ぱちっと目のあった莉生は、目を大きく見開いて固まっている。



んん?



「あ、ああ、悪い。難しすぎて、脳みそ停止してた」



「ちゃんと聞かないなら、もう教えないよ?」



「だから、悪かったって」



その瞬間、こつんと莉生と肘が当たって、びくっと莉生が飛び上がる。



「……そこまで嫌がらなくても」



私はバイ菌か!



「アリスが近寄ってくるのが悪いんだろ⁈」



「だって、近づかなかったら教えられないもん!」



「近づきすぎだ、バカ!」



むうっ。



ホント、失礼な奴っ!



「……って、莉生、顔が赤いけど平気? もしや、勉強しすぎて発熱したとか? 
うわっ、情けな」



「違うわ、トドが! 同情の眼差し向けるのは、ヤメロ!」



それから5分も勉強しないうちに、降参したように、莉生が教科書を投げ出した。



「あー、ダメだ。意味わかんね」



「莉生、飽きるの早すぎっ」



脱力したようにばたんと横になった莉生の隣に、私もゴロンと横になる。



うわー……癒される。



このフカフカのラグマット、眠気を誘う。



「そういえば、数Aのテストってさ」



と、隣にいる莉生に視線を向けた瞬間、莉生もこっちに顔を向けて。



「……っ‼」



おでことおでこがぶつかりそうなほどに、顔が近づいた。あまりの至近距離に、目をぱちくりさせていると。



「……っつつうわああああっ‼」



莉生が、一瞬遅れて、ゴロゴロと部屋の隅まで転がった。



……そこまで大げさに嫌がらなくても。



リアクション芸人?



ぜえぜえと息を切らせている莉生に、



「大丈夫?」



と、近づいて声をかける。



「いや、無理、全然、無理!」



……無理なんだ。



「勉強しなくていいの?」



「今日は、もういい。つうか、夕飯作るっ」



そう言って、キッチンで腕まくりをして莉生が料理にとりかかる。