玄関で靴を履いていると、うしろから扉に両手をついた莉生に、閉じ込められて、足止めされた。



「莉生は、ど、どこに行くの?」



振り返ると、すぐそこに莉生の瞳があって、莉生の唇が目に入る。



ひ、ひゃああっ!



この距離、キケン。心臓、止まる。



「コンビニに行くんだろ?」



「ひ、ひとりで行けるし!」



莉生と一緒に行くとか、意味がない!



っていうか、莉生、近すぎる!



「女子がこんな時間にひとり歩きしちゃだめだろ」



ポンっと頭に莉生の手が置かれて、心臓がばくんと大きな音を立てる。



……ああ、もう、心臓が壊れた。



「てか、まだ外明るいから!」



「はいはい、ほら、行くぞ」



いきなり女子扱いするとか、やめてほしい。



これだから、天然たらしは! 



無駄にドキつかせるとか、質が悪い!



「運動させないと、トドがそのうち、クジラになっちゃうかもしれないからなー。アリスがクジラサイズになったら、エサやり大変そうだし」



にやっと笑った莉生を、じろりと睨む。



さきほどのドキつき、速攻、削除。



心臓が誤作動するにもほどがある。



「やっぱり、コンビニ行かないっ!」



「なんだよ、わがまま。ほら、行くぞ」



むう。



莉生と並んで歩くと、すれ違う女の子たちの熱い視線が突き刺さる。



ホント、モテる男が義理の弟とか、面倒だ。



「ねえ、ねえ、あの人見て! すごくカッコいい!」



「うわっ、モデルかな! 今、目があった気がするっ」



そんな高い声と同時に、カシャっとスマホの音がする。



女の子たちはキャーキャーと盛り上がっているけど。



「あの音って、写真撮られた音?」



「みたいだな」



「いいの?」



「アリスのことを盗撮したら、マジ、許さないけど」



「自分の写真は撮られてもいいの?」



「面倒だし」



莉生はこういうことに慣れてるのかもしれないけど、本当に気にならないのかな。



……毎日、毎日、女の子に追いかけまわされて、莉生だって、時折、しんどくなる
んじゃないかな。



そういえばあゆみちゃんが言っていた。



『水島くんてね、中学のときに女子からの誘いをいつも断ってたせいで、冷たいとか、いい気になってるーとか言われて、女子の反感買っちゃって大変だった時期があるみたいだよ』



騒がれても、勝手に写真を撮られても、あまり莉生が強く拒絶しないのは、嫌な思いをしてきたせいなのかもしれない。