「ごめん、間違えて莉生のセーター持ってきちゃった!」



「だよな、アリスのセーターが残ってたから、そうかなと思ったけど」



言いながら、ちらりと私を見た莉生が、パッと顔をそむける。



ま、そりゃ、怒るよね。



勝手にもってきちゃったし。勝手に着てるし。



莉生、寒がりだし。



「ごめんね、別のセーター持ってくるかなーと思って着ちゃってたんだ。さすがに
ジャージはしんどいよね。今すぐスグ返すね」



「返さなくていい」



ふいっと莉生が目をそらす。



んん?



さっきから、莉生と目が合わない。



これは、かなり怒ってる?



ま、今回は私が全面的に悪いからなあ。



「ごめんね、莉生」



じっと見つめて謝ると、なぜか莉生がさらに顔を赤くする。



んん?



「莉生、やっぱり風邪ひいた?」



「え? いや、べつに」



「とりあえず、これ、返す」



セーターを脱ごうとしたところで、莉生に止められた。



「だから、返さなくて、いいって」



「でも、莉生が風邪ひいちゃうよ。もうすぐ中間テストなのに」



「俺は風邪ひかない」



断言した莉生に



「バカだから?」って聞いてみる。



「その通り……って、ふざけんな!」



けらけらと笑うと、莉生が困ったように目を伏せる。



「俺はジャージ着てるから、大丈夫だよ。アリスが着てて」



「ま、莉生ならジャージでも許されそうだよね。莉生、カッコいいからジャージ着ててもモデルみたいだし」



「ぐっ」



……なに、今の音?



「アリス、俺のことカッコいいって思ってくれてるんだ?」



「うん、思ってるよ?」



きょとんと莉生を見上げると、真っ赤な顔した莉生に、ムニっと頬っぺたをつままれた。



「莉生、いひゃい」



「はあ、ホント、お前さ……、ムカつく……」



だから、返すっていってるのに。



「ほら、教室帰るぞ」



「セーターは、いいの?」



「『これは俺のもの』ってことで、着ておいて」



ポンポンと私の頭をたたきながら、莉生はそう言うけれど。



莉生のセーターだってことくらい、わかってるし!





結局、その日は莉生のセーターを借りて一日を過ごした。