晴れやかな日の午後。緑が豊かな宮殿の庭で、日傘を差したマリアはレイノルドと歩いていた。
 単なるお外デートではない。
 婚約披露パーティーの会場を下見しているのである。

 正式な婚約式典は、国王が見守るなか行われる公事になる。その前に王侯貴族にだけ顔見せするのが、王族が婚姻する際のしきたりとなっていた。

 二人の先には案内役の側近がいて、会場の設えを説明していく。
 長話に付き合っていたレイノルドは、天高く昇った太陽を見上げてネクタイを緩めた。

「少し暑いな」
「仕方ありませんわ。もうすぐ夏ですもの」

 タスティリヤ王国は、陽光がたくさん降りそそぐ温暖な国だ。
 真冬でも雪が降ることはまれで、基本的に春先から冬のはじめまで、厚い防寒着なしで過ごすことができる。
 陽気で明るい国民性は、気候による影響が大きい。