髪を振り乱すたびに自分のおう吐物の匂いでさらに吐き気が込み上げてくる。

助けを呼びたくてもスマホは部室のバッグの中だ。

とにかく落ち着こう。落ち着いて考えよう。

扉を叩く手を止めて必死に考えを巡らせる。

……大丈夫。閉じ込められたと言っても、一生この場所に助けが来ないわけではない。

倉庫の鍵をかけられたとしても体育館の鍵自体はかけられていない。

必ずその日の担当の先生が見回りにくる。

そのときにここから出してもらえばいいだけ。

でも……。

今の自分の体を想像する。

おう吐物まみれになっている姿を見たらどの先生だって驚くに違いない。

倉庫の鍵をかけられて閉じ込められたことだって知られるかもしれない。

それどころかイジメられていることが校内で問題になるかも。

そうなったらチクったとみなされてみんなからのイジメがさらに悪化する可能性もある。

どうしよう。いやだ。そんなのいやだ……。

もう耐えられない。もう……何もかも投げ捨てて逃げ出してしまいたい。

蒸しと暑い体育館倉庫の中にいると、思考も気力もすべてが奪われていく。

それに、さっきからずっと尿意を我慢していた。

下半身に力を込めて必死に堪えているけど、限界は近い。

こんなところで漏らしたとしられたら……

考えただけで恐ろしくなる。

あたしは再び倉庫の扉を叩いた。

「誰か。誰か助けてーー!!ここを開けて!!!」