「なにその顔?なにか不満?」

「いえ、咲綾先輩のイジメ返しが成功してよかったです。エマの協力はもう終わりです」

少し怒っているように見えたエマだけど、あたしの思い違いだったようだ。

「うん。あとは一人で大丈夫。イジメ返しのことはあたしとエマの二人の秘密ね。あと、二人でこうやって話すのは最後にしよう」

「どうしてですか?」

「元々はイジメ返しされたあの4人が悪いとはいえ、あたし達色々悪いことしたでしょ?周りの人にバレない為」

とはいえ、イジメ返しをずっと先導してきたのはエマだ。

エマが様々なことを根回ししてくれたことでイジメ返しは成功した。

ノエルの家に盗撮カメラを仕掛けたのも生ごみを回収したのも全部エマだ。

どうやって家に忍び込んだのかなど細かいことは教えてくれなかったけれど、「エマに任せてください」とほとんどのことはエマが一人でやった。

あの日もそうだ。

菅田という男を突然紹介され、ノエルたちの元へ行くように指示を出された。

菅田は何故かエマの言うことにすべて従っていた。

そして、菅田と別れた後エマは笑って言った。

『菅田は今日を機に祐ちゃんを殴れなくしましょう』

とさらりと言ってのけた。

『どうやって?』

『両腕を折ります。折るだけじゃダメですね。海荷先輩のように複雑骨折にしましょうか。その方がすぐに回復しないから』

冗談かと思っていたけど、エマは本気のようだった。

なんだか恐ろしくて菅田がどうなったか調べていない。

どのような方法で4人を追い詰めたのか詳しくは教えてくれなかったけれど、エマに力があるのは分かっている。

正直、エマは恐ろしい人間だ。

エマを敵に回すのは得策ではない。

あたしはもう高3だしこのまま卒業して大学へ進めばエマとはお別れだ。

ノエルたちにイジメられたことによってできた傷はまだ癒えないし、これからもきっと古傷として残るだろう。

でも、あたしは前を向いて生きていく。

もしバレそうになった時にはエマを警察に差し出そう。

あたしにはエマを追い詰める秘策がある。

「分かりました。今日でエマは咲綾先輩とはなんの関係もありません。さようなら、咲綾先輩」

「うん。またね」

あたしはエマに手を振ると颯爽と部室に向かって歩き出した。