イジメ返し―連鎖する復讐―

全部……咲綾とエマが仕組んだこと……?

そう考えれば菅田と咲綾が一緒にいた理由にも説明がつく。

あたしへのイジメ返しの為に、外堀から埋めていこうっていう作戦なのかもしれない。

「……ノエル、入るよ」

部屋の扉がノックされた。

返事をする前に開かれた扉からマリアが顔を覗かせる。

「私、今帰ってきたんだけどなにかあったの?パパ、なんか怒ってるみたいだったから」

「別に。何もないけど」

部屋に足を踏み入れたマリア。その全身を舐めるように見つめる。

長い髪を緩く巻き、流行のメイクをしているマリア。

父に買ってもらったであろう高級ブランドのバッグ、キラキラ光るオーダーメイドの腕時計。

マリアの持ち物を見ると胸が締め付けられる。

父はマリアに一体いくらお金を使う気なんだろう。

あたしだって大学生になったらあんなバッグを持ちたい。

マリアのように愛されたい。

「それならいいんだけど……。あっ、そうそう。これ。ノエルにプレゼント」

マリアはそう言うと、小さな紙袋をあたしに手渡した。

「なにこれ」

「香水。良い匂いだからノエルに似合うかなって思って」

「……いいの?」

「もちろん。もらってくれる?」

「うん。ありがとう」

マリアはこうやって事あるたびにあたしにプレゼントをくれる。

いつもニコニコと穏やかで優しいマリアとは幼い頃からケンカをしたことがない。

あたしが何を言ってもマリアは怒らない。

マリアは完璧で非の打ち所がない。

マリアと自分を比べると、劣等感で押しつぶされそうになる。

「私、これからサークルのみんなとご飯食べにって来るから。またね、ノエル」

マリアはにこりと笑うと部屋を後にした。

「サークル……か」

あたしは高卒で働けと言われているのに、自分はサークル?

ズルい。マリアばっかりズルい。

きっとマリアが逆の立場だったらこんな風に思わないんだろう。

「ハァ……」

あたしはベッドの上で膝を抱えてため息をついた。