「雨だ……」
突然降り出した大粒の雨が窓ガラスを容赦なく叩きつける。
おばあちゃん、大丈夫かな。迎えに行った方がいいかな……。
「ん……?」
思考を巡らせていると、トントンッと玄関の木戸をノックする音がした。
玄関のチャイムはとっくの前に壊れていて来客はいつも決まって木戸をノックする。
「はーい」
誰だろう、こんな時間に。セールス?それとも工事業者の挨拶?それか、おばあちゃん?
「おばあちゃん??」
何の疑いもなく木戸を開けたあたしは思わず息を飲んで目の前にいる人間を見つめた。
「久しぶりだなぁ、瑠偉。元気だったか?」
「せ、センセ?なんで……?」
目の前に立っているのは折原先生だった。
普段だったらサイドを刈り上げ艶のある黒髪をオールバッグに整えているはずの先生の髪は雨に濡れて落ち武者のように垂れ下がっていた。
頬はこけて目の下はくぼみ大きなクマができている。
口周りには無精ひげが伸び放題になっていて顔中が薄汚く、体から生ごみのような異臭が鼻をつく。
「瑠偉……」
手を伸ばしてきた先生にあたしは思わずサッと体を引いた。
爪の間はびっちりと黒い汚れが溜まり、不衛生極まりない。
「ひどいやつだなぁ、瑠偉は。汚い物をみるような目で俺を見るなよ」
「センセ、瑠偉今忙しいの。だから――」
笑顔で対応しながらそっと木戸に手をかけると、先生が扉を手で押さえつけた。
「おいおい、閉めるな。まだ話は終わってないんだぞ」
「やめて、センセ。瑠偉、怖いよぉ」
一刻も早くこの男から離れないとまずいことになる。
「怖い……?何を言ってるんだ。俺はお前の誕生日をお祝いしにきてやったんだ。喜んでくれてもいいだろ?」
「センセ、ありがとぉ」
にこやかに対応しながら頭をフル回転させる。
玄関先でこの男を追い返すのは得策ではない。
だったら家の中に招き入れよう。歓迎している風を装ってお茶でも飲ませている間に警察に通報すればいい。
「もうすぐ家族が帰ってくると思うんだけど……。少し上がっていって?」
あたしの言葉に先生は満足げに頷くと家の中に足を踏み入れた。



