「なあ、瑠偉。学校で変わったこと……あったか?」

恐る恐る尋ねる。

『変わったことっていうか、センセーのことが学校で大問題になってるみたい。緊急の職員会議があって、授業全部潰れちゃってずっと自習だよ』

「そ、そうか」

『センセ、大丈夫~?』

「大丈夫……ではないな。正直参ってるよ。俺は信頼も信用も何もかも失った。家族も今日……家から出て行った」

『そうなの?』

「ああ。俺にはもう……瑠偉しかいないんだ」

スマホを持つ手に力がこもる。

思えば、俺と瑠偉が関係を持ったきっかけは瑠偉からの猛烈なアピールだった。

バスケ部に入部してきた時から俺が既婚者と知っていながら瑠偉は「センセ、大好き」と俺への愛をまっすぐぶつけてきた。

瑠偉が可愛くてしかたなかった。

嫉妬深くて甘えん坊で独占欲の強い瑠偉が……。

時にその一途さにうんざりすることもあったものの、今考えればそれすら俺を一途に愛してくれていたからに違いない。

人生はまだ長い。その長い人生を瑠偉と一緒に歩いていくのもいいかもしれない。

そうだ。それが俺の最善の道だ。

「瑠偉、よく聞いてくれ。俺と逃げよう」

『ふふっ、なにそれぇ』

……ちゃんと言葉にしないと伝わらないよな。

分かったよ、瑠偉。瑠偉が分かるようにちゃんと伝える。

俺の今の気持ちを全部。

「俺は瑠偉を愛してる。瑠偉だけを心の底から愛しているんだよ。だから、誰も知らないところへ俺と瑠偉で逃げるんだ。二人ならなんとかなる。そして、そこでまた新しい人生を始めよう――」

『ふっ、センセって頭まで筋肉でできてるの?そんなの瑠偉には何のメリットもないよ』

「瑠偉……?」

『センセとの関係は不倫だから楽しめていたんでしょぉ?今のセンセは見てらんない。かっこよくないもん』

「なっ……!」

『さよなら、センセ。瑠偉、先生の連絡先消すねっ。もう二度と瑠偉に連絡してこないで。もし連絡してきたら校長先生……ううん、警察に言うからね?意味わかるよね?』

「そんな……瑠偉まで俺を見捨てるのか……?そんな――」

『……瑠偉、どこ?』

『あっ、照くん~!一番奥のベッドにいるよ~』

そのとき、電話口から瑠偉を呼ぶ男の声と甘ったるい瑠偉の声がした。

「瑠偉……お前……他にも男がいたのか……」

愕然とする。瑠偉は俺一筋だったはずじゃ……。

『センセだって奥さんいたじゃん。じゃーね、バイバイ』

声を押し殺して言うと、瑠偉は一方的に電話を切った。