家に帰るまでの間、電話やメッセージがやむことはなかった。

学生時代のバスケ部のメンバーにも、学校関係者にも俺の知り合いすべてに動画や画像が送信されてしまっていた。

おもしろがって連絡をしてくる人間や、二度と連絡をしてくるなと突き放すメッセージも入っていた。

「幸美!!くそ野郎!!いるんだろ!?出てこい!!!」

玄関扉を開けると、違和感を覚えた。

「ない……?どうしてだ……」

玄関先にいつも置いてある幸美と亜子の靴がない。

それどころか家の中はシンっと静まり返っていた。

「そんな……嘘だろう……」

リビングに足を踏み入れてハッとする。

床には思い出の品が床に広がっていた。

結婚当初に撮った写真が入ったガラスの写真立ては粉々に割られ、バスケでもらった大会の賞状はビリビリに破られ、トロフィーは傷だらけだった。

「おい、幸美!!どこだ!?」

脱衣所の前を通ると、そこには俺のパジャマや下着がふみつけられたかのように散乱しハサミで切り刻まれていた。

二階は更にひどいありさまだった。

俺の部屋は無残に荒され、大切にとってあった過去のバスケ用品は無残にも破壊されていた。

「なんだこれは……あいつ……なんで……」

家の中に二人の姿はなかった。

全身の力が抜けていく。

階段を降りると、ダイニングテーブルの上に何かがおかれているのに気が付いた。

そこにあったのは記入済みの離婚届だった。

隣には置手紙がある。

【一郎さんへ】

あなたとの生活に疲れ果てました。私と離婚してください。
慰謝料も養育費もいりません。
私の望みはただ、私と亜子の人生から折原一郎という人間がいなくなることだけです。
あなたがいなければ、それでいいのです。
もっと早くこうしていればよかったのだと、今は後悔の気持ちでいっぱいです。
でも、彼女が私の背中を押してくれた。
これで人生の再スタートをきることができるのです。

「なにを、クソ女が!俺と別れたいだと!?」

その下にまだ手紙は続いていた。

もしも不服でしたら裁判所へどうぞ。
こちらは弁護士の先生にお話ししています。
証拠も全て押さえています。
今後一切、私はあなたと接触するつもりはありません。
話し合いも全て先生に一任しています。
こちらへではなく直接弁護士の先生へどうぞ。
もし実家に押しかけた場合、すぐに警察を呼ばせて頂きますのであしからず。
さようなら。どうぞお元気で。 幸美

「幸美だったんだな……。アイツが動画や写真を流出させたんだ……」

全身が怒りでガタガタと震える。

一体アイツはどうやって動画や写真を閲覧したというんだ。

スマホは常に鍵をかけてあるし、弄ることはできなかったはずだ。

だとしたら、パソコンを見た……?

いや、アイツはパソコンに疎いはずだ。

スマホだって電話とメールぐらいしかできないぐらいの機械音痴だ。

データを盗み出して、それを俺の知り合い全員に送るなんて器用な真似できるはずがない。

だとしたら、誰が。一体誰が。アイツに協力者がいるのか?

それに……あの手紙の彼女って誰だ。その女が協力者なのか……。

その女は今一体どこに……?どうして幸美に協力をしたんだ?

分からない。どうしたらいい。俺はこれからどうしたらいいんだ!!