「いってらっしゃい、ご主人様」
翌朝、顔を腫らした幸美は笑顔で俺にバッグを手渡した。
「今日は昨日のお詫びを兼ねてお弁当、頑張ってみました」
「そうか」
ぐっすり眠ったはずなのに何故か頭がガンガン痛む。
俺は素っ気なく返すと、幸美の顔を見ることなく家を後にした。
「おはようございます」
職員室の扉を開け、中に入ると何故か教師が一か所に集まり全員がパソコン画面を
凝視ししていた。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
近付いていき声をかけると、「折原先生!!これ、どういうことですか!?」と隣のクラスのヒステリックな中年教師が俺に詰め寄った。
「何がですか?話が全く見えません」
物事をきちんと伝えることもできないのか。この低能が。
「これ、見なさい!!貴方でしょう!?」
「だから、何が」
ノートパソコンの画面を自分の方へ向けられた俺は思わず固まった。
見覚えのある女子高生にのしかかっている男。
それは……。
「なんだ、これ。なんなんだよ」
「それはこっちのセリフですよ!!この動画が今朝匿名で学校に届いたんです。ここに映ってるのはあなたでしょう!?」
「ち、違います。俺じゃない……!」
「あなた以外居ないでしょ!?これだけじゃないのよ。こっちもみなさい!」
パソコン画面の中に映し出されたのは我が家だった。
ダイニングテーブルに座っている俺は何かを叫び、お椀を床に叩きつけた。
幸美が駆け寄り謝っている。その背後で亜子の泣き声がする。
「折原先生、これは大問題だ。ここに映ってるのは君の奥さんだろう。これは家庭内暴力のれっきとした証拠だ」
校長が顔を怒りに染め吐き捨てるように言った。
「そ、そんな!待ってください!!これには理由が……」
「理由も何もあるか!どんな理由があるにせよ暴力を振るうことは許されない!教師である君がどうしてこんな浅はかなことをしたんだ!!」
目を血走らせて怒りを露にする校長に返す言葉がない。
「だ……誰かが俺をハメようとしているんです。だから、ちょっ、ちょっとだけ俺に時間をください!」
俺はそう叫ぶと職員室を飛び出した。
全速力で元来た道を引き返す。
家の中の映像まで映っていたとなれば考えられることは一つだけ。
俺をハメようとしているのは妻だ。妻の幸美に違いない。
「キャッ」
わき目も降らずに走っていると、前から歩いてきた人間と肩が触れ合った。
「す、すまない!!」
慌てて謝ると、そこにいたのは咲綾だった。
「先生、どうしたんですか。そんなに慌てて。顔、真っ青ですけど」
「悪いが今お前としゃべっている暇はないんだ」
「家庭でのいざこざですか?奥さんのことちゃんと大切にしないと逃げられちゃいますよ?」
何故か咲綾は俺の姿を見て口角を持ち上げた。
「……なんだと?」
「先生の奥さんは無能なんかじゃありませんよ。とっても頭がいい。無能なのは先生の方だったんじゃないんですか?」
「なっ……!お前何か知って――」
そこまで言いかけたタイミングで、ポケットの中のスマホが震えた。
ディスプレイには【次郎】と弟の名前が表示されていた。
滅多に連絡なんかしてこないのに一体何の用だ。
画面をタップしてスマホを耳に当てると、電話口から聞こえてきたのは弟の悲痛な叫び声だった。
「兄さん、大変だ!!僕の会社に兄さんに似てる男の動画や写真が届いたんだ!何か知ってるか!?」
「お前の会社にもだと!?」
全身から血の気が引いていく。これは思っている以上に恐ろしいことになっているようだ。
「それが父さんの会社や実家にも届いたらしいんだ……。兄さん、教え子に手を出していたのか!?それに義姉さんに暴力まで……。なんてことをしてたんだ!」
「うるさい!今はお前の話なんて聞きたくない!」
「兄さんは義姉さんに捨てられるぞ!それどころか……いや、もういい!!僕は自分のことを何とかする。そっちもせいぜい頑張ってくれ」
「言われなくても分かってる!切るぞ!」
電話を終えた頃には咲綾の姿はなくなっていた。
全ての鍵を握るのは幸美だ。あの女……絶対に許さない。
俺はわき目もふらず自宅へ急いだ。
翌朝、顔を腫らした幸美は笑顔で俺にバッグを手渡した。
「今日は昨日のお詫びを兼ねてお弁当、頑張ってみました」
「そうか」
ぐっすり眠ったはずなのに何故か頭がガンガン痛む。
俺は素っ気なく返すと、幸美の顔を見ることなく家を後にした。
「おはようございます」
職員室の扉を開け、中に入ると何故か教師が一か所に集まり全員がパソコン画面を
凝視ししていた。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
近付いていき声をかけると、「折原先生!!これ、どういうことですか!?」と隣のクラスのヒステリックな中年教師が俺に詰め寄った。
「何がですか?話が全く見えません」
物事をきちんと伝えることもできないのか。この低能が。
「これ、見なさい!!貴方でしょう!?」
「だから、何が」
ノートパソコンの画面を自分の方へ向けられた俺は思わず固まった。
見覚えのある女子高生にのしかかっている男。
それは……。
「なんだ、これ。なんなんだよ」
「それはこっちのセリフですよ!!この動画が今朝匿名で学校に届いたんです。ここに映ってるのはあなたでしょう!?」
「ち、違います。俺じゃない……!」
「あなた以外居ないでしょ!?これだけじゃないのよ。こっちもみなさい!」
パソコン画面の中に映し出されたのは我が家だった。
ダイニングテーブルに座っている俺は何かを叫び、お椀を床に叩きつけた。
幸美が駆け寄り謝っている。その背後で亜子の泣き声がする。
「折原先生、これは大問題だ。ここに映ってるのは君の奥さんだろう。これは家庭内暴力のれっきとした証拠だ」
校長が顔を怒りに染め吐き捨てるように言った。
「そ、そんな!待ってください!!これには理由が……」
「理由も何もあるか!どんな理由があるにせよ暴力を振るうことは許されない!教師である君がどうしてこんな浅はかなことをしたんだ!!」
目を血走らせて怒りを露にする校長に返す言葉がない。
「だ……誰かが俺をハメようとしているんです。だから、ちょっ、ちょっとだけ俺に時間をください!」
俺はそう叫ぶと職員室を飛び出した。
全速力で元来た道を引き返す。
家の中の映像まで映っていたとなれば考えられることは一つだけ。
俺をハメようとしているのは妻だ。妻の幸美に違いない。
「キャッ」
わき目も降らずに走っていると、前から歩いてきた人間と肩が触れ合った。
「す、すまない!!」
慌てて謝ると、そこにいたのは咲綾だった。
「先生、どうしたんですか。そんなに慌てて。顔、真っ青ですけど」
「悪いが今お前としゃべっている暇はないんだ」
「家庭でのいざこざですか?奥さんのことちゃんと大切にしないと逃げられちゃいますよ?」
何故か咲綾は俺の姿を見て口角を持ち上げた。
「……なんだと?」
「先生の奥さんは無能なんかじゃありませんよ。とっても頭がいい。無能なのは先生の方だったんじゃないんですか?」
「なっ……!お前何か知って――」
そこまで言いかけたタイミングで、ポケットの中のスマホが震えた。
ディスプレイには【次郎】と弟の名前が表示されていた。
滅多に連絡なんかしてこないのに一体何の用だ。
画面をタップしてスマホを耳に当てると、電話口から聞こえてきたのは弟の悲痛な叫び声だった。
「兄さん、大変だ!!僕の会社に兄さんに似てる男の動画や写真が届いたんだ!何か知ってるか!?」
「お前の会社にもだと!?」
全身から血の気が引いていく。これは思っている以上に恐ろしいことになっているようだ。
「それが父さんの会社や実家にも届いたらしいんだ……。兄さん、教え子に手を出していたのか!?それに義姉さんに暴力まで……。なんてことをしてたんだ!」
「うるさい!今はお前の話なんて聞きたくない!」
「兄さんは義姉さんに捨てられるぞ!それどころか……いや、もういい!!僕は自分のことを何とかする。そっちもせいぜい頑張ってくれ」
「言われなくても分かってる!切るぞ!」
電話を終えた頃には咲綾の姿はなくなっていた。
全ての鍵を握るのは幸美だ。あの女……絶対に許さない。
俺はわき目もふらず自宅へ急いだ。



