家に帰り、風呂と夕飯を済ませると俺は自室にこもりスマホに残ったデータを全て自宅でのみ使用するパソコンに転送した。
人に見られては困る画像や動画、それにメッセージ。
それが完了すると、スマホのデータを一括消去した。
今までの俺は軽率だった。
スマホにロックをかけているとはいえ、職員室の机の上に放置したまま席を離れることもあった。
暇な時の気晴らしに時々以前撮った画像や動画を一人でみて楽しむことはあったけれど、どこで誰に見られているのか定かではなかった。
エアドロップという行為でスマホのデータを抜き取られることはないにしろ、これからはもっと気を引き締めなければいけない。
不祥事を起こして今の天職を失いたくはないし、まだまだ女子高生たちと遊びたい。
これからはすべてパソコンに保存しよう。このパソコンなら誰も見ることができない。
それでも、念には念を入れる為に隠しフォルダを作りそこに全てを保存した。
「あなた……、少し話が……」
コンコンッと遠慮がちに部屋の扉をノックされ俺はノートパソコンを閉じた。
「入れ」
扉が開いと同時に視界に飛び込んできた陰気臭い幸美の顔に嫌気が差す。
「何の用だ。俺は忙しいんだ」
「ごめんなさい。お仕事中でしたか?」
「だったらなんだ。それで、話は?」
「実は来週末、父の誕生日会が実家で開かれることになっていて。一郎さんもぜひと母が……」
「ふんっ、そんなもの俺はいかないぞ」
バンッと怒りに任せてPCデスクを叩く。
「そんな……」
「お前みたいな出来損ないと結婚してやっただけでも感謝して欲しいぐらいなのに、誕生日会まで参加だと?貴重な休みの週末に?ふざけるな。お前もそんなものいくな!!」
「そんな……。断る理由がありません……」
「当日、家族全員が突発的に熱が出て具合が悪くなったと言えばいい。体調が悪い人間をしつこく誘うことはしないだろう」
「でも……」
「でもじゃない!俺の言うことは絶対だ!!うまく断るのも嫁の仕事だ!この出来損ないが!」
俺はデスクの上にあった本を幸美に向かって投げつけた。
俺と幸美の結婚は親同士が決めたものだった。
幸美の実家は大手食品メーカーを営む金持ちで、俺の父は幸美の父の会社の下請けで働いていた。
ある日、ひょんなことから幸美の父親と会い気に入られたことで「うちの娘と会ってみないか?」と誘われた。
最初は乗り気ではなかったものの、周りからは逆玉の輿だと羨まれ両親や弟にはよくやったと褒められた。
出会った当初の幸美はお嬢様として育てられたせいかつつましやかで純粋で何もかもが今まで出会った女と違った。
家庭的で優しく常に穏やかで遠慮がちな性格。
そこがよかった。話はトントン拍子に進み結婚した。だが、俺はすぐに後悔することになる。
大企業の娘と結婚したことで、接待やイベント、それにめんどくさい集まりの類が年に何十回もあったのだ。
そこに顔を出さなければ幸美の父に小言を言われ、それどころか実の両親や弟にも文句を言われる始末。
俺の家族は常に幸美家族に気を遣い、機嫌を損ねないか心配していた。
俺だって学生時代はバスケ選手としてそれなりに結果も残してきたし、今は教師と言う立派な職業にも就いた。
前任校ではバスケ部を全国大会まで導いた有能な指導者だ。
そんな俺がどうして嫁家族の機嫌をとらないといけないんだ?
そんな日々が続き、プライドをズタズタにされた俺は心底嫌気が差した。
好きだったつつましやかさを見る度に苛立つようになり、純粋な部分を見せられると全部黒く塗りつぶしてやりたい気持ちになった。
親が金持ちなだけで大学卒業後も家事手伝いと称して無職だった幸美がのほほんと俺の金で生活しているのが許せなかった。
お前がそれなりの生活を営めているのは誰のおかげだ。俺だ。
俺のおかげだろう!!
「……分かりました。その代り……明日、実家に行ってきます。久しぶりに亜子の顔も見せたいので」
「明日?俺の夕飯はどうする気だ」
「あなたが帰ってくるまでには家にいます」
幸美の強気な言葉が癪に障った。
人に見られては困る画像や動画、それにメッセージ。
それが完了すると、スマホのデータを一括消去した。
今までの俺は軽率だった。
スマホにロックをかけているとはいえ、職員室の机の上に放置したまま席を離れることもあった。
暇な時の気晴らしに時々以前撮った画像や動画を一人でみて楽しむことはあったけれど、どこで誰に見られているのか定かではなかった。
エアドロップという行為でスマホのデータを抜き取られることはないにしろ、これからはもっと気を引き締めなければいけない。
不祥事を起こして今の天職を失いたくはないし、まだまだ女子高生たちと遊びたい。
これからはすべてパソコンに保存しよう。このパソコンなら誰も見ることができない。
それでも、念には念を入れる為に隠しフォルダを作りそこに全てを保存した。
「あなた……、少し話が……」
コンコンッと遠慮がちに部屋の扉をノックされ俺はノートパソコンを閉じた。
「入れ」
扉が開いと同時に視界に飛び込んできた陰気臭い幸美の顔に嫌気が差す。
「何の用だ。俺は忙しいんだ」
「ごめんなさい。お仕事中でしたか?」
「だったらなんだ。それで、話は?」
「実は来週末、父の誕生日会が実家で開かれることになっていて。一郎さんもぜひと母が……」
「ふんっ、そんなもの俺はいかないぞ」
バンッと怒りに任せてPCデスクを叩く。
「そんな……」
「お前みたいな出来損ないと結婚してやっただけでも感謝して欲しいぐらいなのに、誕生日会まで参加だと?貴重な休みの週末に?ふざけるな。お前もそんなものいくな!!」
「そんな……。断る理由がありません……」
「当日、家族全員が突発的に熱が出て具合が悪くなったと言えばいい。体調が悪い人間をしつこく誘うことはしないだろう」
「でも……」
「でもじゃない!俺の言うことは絶対だ!!うまく断るのも嫁の仕事だ!この出来損ないが!」
俺はデスクの上にあった本を幸美に向かって投げつけた。
俺と幸美の結婚は親同士が決めたものだった。
幸美の実家は大手食品メーカーを営む金持ちで、俺の父は幸美の父の会社の下請けで働いていた。
ある日、ひょんなことから幸美の父親と会い気に入られたことで「うちの娘と会ってみないか?」と誘われた。
最初は乗り気ではなかったものの、周りからは逆玉の輿だと羨まれ両親や弟にはよくやったと褒められた。
出会った当初の幸美はお嬢様として育てられたせいかつつましやかで純粋で何もかもが今まで出会った女と違った。
家庭的で優しく常に穏やかで遠慮がちな性格。
そこがよかった。話はトントン拍子に進み結婚した。だが、俺はすぐに後悔することになる。
大企業の娘と結婚したことで、接待やイベント、それにめんどくさい集まりの類が年に何十回もあったのだ。
そこに顔を出さなければ幸美の父に小言を言われ、それどころか実の両親や弟にも文句を言われる始末。
俺の家族は常に幸美家族に気を遣い、機嫌を損ねないか心配していた。
俺だって学生時代はバスケ選手としてそれなりに結果も残してきたし、今は教師と言う立派な職業にも就いた。
前任校ではバスケ部を全国大会まで導いた有能な指導者だ。
そんな俺がどうして嫁家族の機嫌をとらないといけないんだ?
そんな日々が続き、プライドをズタズタにされた俺は心底嫌気が差した。
好きだったつつましやかさを見る度に苛立つようになり、純粋な部分を見せられると全部黒く塗りつぶしてやりたい気持ちになった。
親が金持ちなだけで大学卒業後も家事手伝いと称して無職だった幸美がのほほんと俺の金で生活しているのが許せなかった。
お前がそれなりの生活を営めているのは誰のおかげだ。俺だ。
俺のおかげだろう!!
「……分かりました。その代り……明日、実家に行ってきます。久しぶりに亜子の顔も見せたいので」
「明日?俺の夕飯はどうする気だ」
「あなたが帰ってくるまでには家にいます」
幸美の強気な言葉が癪に障った。



