―折原一郎side―

今日もまた玄関扉の外まで子供の泣き声が響いている。

チャイムを鳴らし扉が開くのを待つ間、数を数える。

1,2,3、4……5秒を待たずして扉は開かれた。

「――おかえりなさい、あなた」

目の前には目の下をくぼませた貧弱な女が立っていた。

「遅い。明日はチャイムが鳴ってから3秒以内に扉を開けろ。お前は仕事もせず家にいるだけだろう。それぐらいできなくてどうする」

「す、すみません……」

妻の幸美(ゆきみ)が顔を引きつらせて両手をこちらに差し出してくる。

俺は持っていたバッグをわざと足元に落とした。

「あっ……」

「何をやってるんだ。ったく。バッグの一つもきちんと受け取れないのか。どうしようもない女だ」

「すみません……」

「すぐに風呂だ。沸かしてあるんだろうな」

「も、もちろんです」

「どけ!邪魔だ」

幸美を押しのけるように家に入ると、バッグを拾い上げ脱ぎ捨てた靴をそろえている幸美に背を向けて真っ先に風呂場に向かった。