ーー咲綾sideーー

「まさか本当に成功するなんて……。正直まだ信じられないよ」

エマに屋上に呼び出されたあたしは興奮しっぱなしだった。

海荷が自宅の窓から飛び降りたという話は、翌日には瞬く間に学校中に広がった。

一週間も経つと学校で海荷のことを話題にする人は誰もいなくなる。

SNSのアカウントは消され、まるで海荷という存在が最初からいなかったみたいに……。

「長島先輩、両方の太ももを開放骨折していたみたいですけど命に別状はなかったそうです」

「開放骨折……?」

「飛び降りた時、太ももの骨が折れて皮膚を突き破って飛び出しちゃったみたいです。着地が悪かったんですね」

なんてことのないように言うエマだけど、海荷は想像を絶する痛みを味わったようだ。

「心を病んでしまったみたいなので足のケガが回復次第、精神病院へ転院することになりそうですね」

「……そっか」

「浮かない顔ですね?」

あたしの気持ちを察したようにエマが顔を覗き込む。

茶色い瞳に吸い込まれてしまいそうであたしは慌てて目を反らす。

「そんなことないよ!でも、なんかちょっと罪悪感っていうか……。確かに海荷にやられたことは許せないけど一応チームメイトだったわけだから」

「それならイジメ返し、やめますか?咲綾先輩次第です」

「それは……」

確かにまだ迷う気持ちはある。

「イジメ返しに誘ったのはエマです。でも、これは咲綾先輩のイジメ返しです。エマは咲綾先輩の意思に従います」

ギュッと拳を握り締める。

まだこれは始まりにすぎない。

ノエル、瑠偉、折原先生……あたしを傷付けて苦しめた人間は海荷だけじゃない。

「――やめないよ。あたしは許さない。残り3人にあたしが受けた痛みを味合わせる」

「分かりました。次は誰にしますか?」

「……先生。折原先生。あのクズ教師に地獄を見せてやる」

「分かりました。必ずやり返しましょう」

あたしの言葉にエマは力強くそう言った。