「無理ってことはないけど……。ただ、ちょっと不安っていうか……。ノエル、一緒に買い取り業者に持っていってくれない?」

「は?無理。アンタがなんとかしてよ。アイツのバッシュ盗もうって言いだしたの自分でしょ」

「それはそうだけど……」

事の発端はノエルの『アイツ、真新しいバッシュ履いてきてんだけど』という一言だった。

ノエルと瑠偉の話では咲綾の履いていたバッシュは某メーカーの人気モデルらしい。

あまりの人気で手に入れることが難しいレアもの。

『ふふっ。どっかに隠しちゃおうかぁ?』

瑠偉が楽しそうに笑いながら言った。

その言葉にノエルもまんざらではない様子だった。

次に続く言葉をあたしは頭をフル回転させて考えた。

ノリのいい言葉を言わないと。

早く。2人が望む言葉を――。

だから、あたしは言ったのだ。

『盗んじゃおうよ。っていうか、売ってお金にしちゃおう。それでなにか美味しい物でも3人で食べにいかない?』と。

ただその場を盛り上げる為に放った言葉に二人は目を見合わせた。

『いいね。面白そう。じゃあ、アンタがやってよ』

その言葉に目の下がぴくっと動いた。

ノエルが体育館の入り口をあごで指す。

入り口にはピカピカのバッシュが不用心に置かれていた。

『アイツ、今ビブス洗うのに必死だから』

ゴクリと生唾を飲み込む。

一瞬、自分が放った言葉を後悔した。

バッシュを本当に盗む気……?

でも、もしも誰かに見つかったら……。

『早くっ。今がチャンスだよぉ?』

瑠偉があたりを見渡しあたしにそっと耳打ちした。

『わ、分かった。行ってくる』

心臓がドクンドクンッと嫌な音を立てて鳴りだした。

背中に二人からの痛いほどの視線が突き刺さる。

キョロキョロとあたりを見渡してからバッシュに手をかける。

あたしはそのままバッシュを胸に抱えると、部室に向かって全速力で駆け出した。