咄嗟のことに反応できずにいると、父親は俺の目をジッと見つめてきた。


「お前、本当にあの女に似てるな」


呟く父親の声に、憎しみは感じられなかった。


ただ母親を懐かしむような声色をしている。


「え?」


思わず聞き返す。


そんな風に言われるとは思っていなかったからだ。


「用事が済んだがリビングを片付けしろ」


そう言われ、俺はしぶしぶリブングへど戻る羽目になったのだった。


片付けろと言われても、俺は掃除の仕方を知らない。


学校の掃除時間は知っているけれど、教室はこの家ほど汚れてもいない。


ゴミ箱の中は常に溢れていて床はとっくの前に見えなくなっている。


ゴミのクッションの上で父親は酒を飲んでいるのだ。


リビングに入るとひどい匂いもするが、俺はすでにこの匂いに慣れていた。


とにかくゴミを黒いゴミ袋に入れていく。


が、分別なんてわからなかった。


なにをどうすればいいのかもわからない。


足元にあるものを片っ端から袋の中に入れていると、突然後ろから蹴られてゴミの中に頭を突っ込んでいた。


「なに捨ててんだてめぇ!!」


父親が馬乗りになって怒鳴り散らす。


俺は質問する暇も与えられずに頬を殴りつけられた。