「部屋から出てくんなって言っただろうが!!」


酔っ払った父親は突如怒鳴り始める。


額の血管が浮いていて、息はアルコール臭い。


今日は仕事で嫌なことがあったようで帰ってきてすぐに『目障りだから部屋から出てくるな』と言われていたのだ。


幼い頃の自分ならそんな父親の言葉をきいて、一歩も部屋からでなかった。


でも今は違う。


俺も少しは成長している。


「トイレ」


と短く言うと、父親は手を離してくれた。


こういう日常に不可欠なことなら素直に許してくれるのだと、すでにわかっていた。


俺は一旦トイレへ向かった。


トイレは玄関のすぐ隣にあるから、ここから外へ出ることも可能だ。


タイミングを見計らって、父親の目を盗んで逃げ出すのだ。


トイレの中でシュミレーションをして、大きく息を吸い込んだ。


あまりなっちゃんを待たせるわけにはいかない。


行くぞ!


トイレから出てすぐ玄関へ向かう。


そう、思ったのに。


目の前に立っていた父親のせいで足が動かなかった。


さっきまでリビングで横になっていたのに、なんで……。