あいつはここにはいないはずだ。


それなのに、どうして?


「どうした?」


あたしの異変に気がついた裕也が近づいてくる。


あたしは咄嗟に紙を机の中に押し込んで隠していた。


裕也の目を直視することができない。


気持ちが悪くて吐いてしまいそうだ。


「なんでもないよ」


あたしは無理に微笑んで答えた。


裕也がまだなにか言っているけれど、聞こえなかった。


周囲の喧騒が遠ざかっていく。


あたしの脳裏にはさっきみた文字が何度も往復していた。


そして、それはあの男の声になって脳内に鳴り響いていた。


愛してるよ、なっちゃん。


それは真っ赤な血文字で書かれていたのだった……。




END