ドライブスルー彼氏

テニス部の子たちを見て憧れるならわかるけれど。


「うまいとか下手とかじゃないんです。ただ、その時に里奈先輩だけに惹かれた。ただそれだけなんです」


その理由はトオコちゃん自身もわかっていない様子だった。


だけど、人を好きになるっていうことはそういうことなのかもしれない。


もっといい人がいたり、もっと似合う人がいても、どうしても1人の人にしか思いを寄せることができない。


そういう、意味もなく真っ直ぐな気持ちなのだ。


「そっか……」


あたしはケーキを食べ終えて息をついた。


あたしもそんな相手がほしかった。


ドライブスルー彼氏では購入することのできない、特別な存在がほしかったんだ。


「気持ち悪いですよね?」


トオコちゃんがうつむいて聞いてきた。


あたしは慌てて左右に首をふる。


そんなつもりで質問したんじゃない。


人を好きになるということを、もう1度考え直したいと思って質問したんだ。


「そんなことないよ。その、トオコちゃんの気持ちにはこたえられないけれど、それでも気持ち悪いなんてこと、絶対にない」


力強く言うと、トオコちゃんはようやく顔を上げて笑顔を見せてくれたのだった。