ドライブスルー彼氏

目の前には大きな山がそびえ立っていて、これより先は県境の山道に差し掛かる。


周囲には人気どころか、建物もなく、街頭すら立っていない。


こんなさびしくてなにもない場所に、妙な小屋があるわけがない。


スマホの明かりで周囲を照らしながら自転車をこいで見ても、やはりなにも見当たらない。


やっぱり琴葉の嘘だったんだ。


そうわかるとなんだかホッとしている自分がいた。


少なくても、放課後まで出会いがないと嘆いていた琴葉に翌日には彼氏だできていた。


なんて、奇妙な出来事はなかったことになるんだから。


普通に出会ったのならそう言えばいいのに。


心の中で文句を言いながら、それでも一応自転車を降りて周囲を念入りに調べてみようとしたときだった。


山の麓に、普段は見落としてしまうようなわき道を見つけたのだ。


そこには街頭もなく、車一台がギリギリで通れるくらいの道幅しかない。


舗装もされておらず道が悪い。


少し迷ったけれど、あたしはそのわき道へ入って見ることにした。


考えてみればドライブスルー彼氏なんてものが、大通りに面した場所にあるとは思えない。


そんな堂々と設置されていたら、あたしでも目についているはずだ。