「それは仕方がないんじゃない? だって、〝今日の会のために〟ってことは、せいぜい一、二ヶ月しかやってないんだろ? 彼らは生まれた瞬間から王族や貴族で、何年にも亘って日常的にそういうことを教え込まれる。けど、俺達は違う」

 持っていたグラスを傾け、アダムはそれを一口飲む。

「この会場でこうして立っているだけで、十分及第点だと思うけど」
「そうかしら?」
「そうそう。気を楽に持っていればいいんだよ。俺だって近衛騎士の礼儀作法なんて何も知らないけど、なんだかんだでなんとかやってる」

 はハッと笑うアダムを見ていたら、なんだか気持ちが急に軽くなるのを感じた。

「ありがとう。気が楽になったわ」

 同じ平民同士、そして獣人同士なせいか、アダムとはとても話しやすい。

「アダムさんはダンスを踊らないの?」
「うーん。騎士団に入ってから習ったんだけど、僕には収穫祭の踊りのほうが向いているね。ダンスはわいわいやらないと」

 アダムは肩を竦めて肘を折ると、両手を天に向ける。