「そうだよ」
「獣人のあなたが王女殿下の近衛騎士をしているの?」

 ミレイナが驚いたのには理由がある。
 忌み嫌われる存在であった獣人が王族の側に控える、ましてやこのように獣人であることを隠さずに過ごすなど、ミレイナがいた頃のアリスタ国では考えられないことだったのだ。

「うん、そうだよ。今回の外遊に同伴した獣人の騎士は僕だけだけど、アリスタ国に戻れば僕以外にも何人か獣人の騎士がいるよ。動物の姿にカモフラージュしてお忍び中も堂々と護衛ができるから、とても重宝されている。それに、普通の人間より運動神経もいいしね」

 アダムはおどけたように笑うと、パチンとウインクする。

(獣人が近衛騎士……。きっと、獣人の地位が向上しているのね!)

 ミレイナは以前、見識を深めるために世界中を旅していたアリスタ国の王太子であるリック──本名をバルデリック王子という──と偶然ラングール国で出会って知り合いになった。
 そして、リックは和平調印式の日、世界には多種多様な種族が支え合って暮らしている国が沢山あり、アリスタ国でも獣人の地位向上に努めたいと思っているとミレイナに語った。